圧力蛍光装置を用いアミロイド線維の構造状態の圧力-温度相図を作成し、オリゴマー中間体やアミロイド線維の構造と熱力学的性質の関連性を議論することを計画した。主な研究対象はαシヌクレイン(αSyn)とβ2ミクログロブリン(β2m)とした。 初めにαSynにおいて、チオフラビンT蛍光によるアミロイド線維の圧力変性の可逆性を検証したが、理想的な可逆変性ではないという観察結果を得て、当初想定していたモデルとは異なる解釈が必要であると判断された。また、線維の圧力変性中に生じると思われる線維形成中間状態の検出をNMRで試みたが、有意なデータを得るには至らなかった。そこで、αSynの線維形成能や線維形態がpHに依存するという報告をもとに、αSynの構造変化をNMRで測定し得られた化学シフトデータを主成分解析したところ、pH依存的な構造変化の様子をとらえることができ、また酸性pHでモノマー間会合を示すデータも得た。これが、報告された線維形成能のpH依存性を説明する知見となると考えられる。 β2mに関しても、主にモノマー構造変化について解析した。β2mは酸性pHでは常圧、中程度の塩の存在下で線維化するため、β2m構造の圧力、塩濃度依存性をNMRで測定し、得られた化学シフトデータを主成分解析した。その結果、β2mは本来の性質として疎水性クラスター残余構造を形成しており、そこに塩の効果による特有の構造変化が加わることで、線維形成能が上昇しているという知見が得られた。加えて、β2mの折り畳み中間体が線維形成の前駆体であるという報告をもとに、折り畳み挙動の圧力依存性も蛍光分光器を用いて測定したところ、中間体状態ではミスフォールドした構造にトラップされているという知見が得られた。 これらのいくつかの結果はすでに学会等で報告しており、順次投稿論文としての発表を進める。
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