我々はこれまでの研究から、EGFファミリーの増殖因子HB-EGFが、その受容体ErbB4を介して、マウス胎仔期心臓弁形成過程において間質細胞の増殖を抑制することで正常な弁形成制御に寄与していることを明らかにしている。そこで本研究の目的は、HB-EGF-ErbB4による細胞増殖制御の分子機構を明らかにし、さらにこの機構をHB-EGFのがん増殖抑制に応用し、新たながん治療法の確立を目指すことである。これまでに以下のことを明らかにした。 1) 切断型ErbB4であるJM-aタイプがHB-EGF KOマウス由来弁間質細胞の過増殖を抑制、逆に非切断型JM-bタイプが野生型細胞の過増殖を誘導したことから、HB-EGFによる増殖抑制には受容体として切断型JM-aタイプErbB4が寄与している。 2) ErbB4 KO胎仔心臓弁の肥厚、そしてErbB4 KO由来弁間質細胞がHB-EGF KOと同様に過増殖を示したことなどから、実際のマウス生体でもHB-EGFによる増殖抑制には受容体としてErbB4が機能している。 3) ErbB4 JM-aタイプのさらなる細胞内領域バリアントであるCYT-1とCYT-2の増殖抑制能を検討したところ、いずれのタイプも抑制能を有することから、増殖抑制には細胞内領域CYT-1/CYT-2両方に含まれる領域が必須であること。 4) HB-EGF-ErbB4による、細胞増殖制御機構のHB-EGF依存性がん増殖の抑制への応用を目的として、ErbB4細胞内領域(ErbB4-ICD)をテトラサイクリン添加依存性に誘導発現するマウス乳腺上皮細胞株を樹立し、ErbB4-ICD発現依存的に細胞増殖が抑制されることを確認した。今後はこの系を用いて、がん細胞増殖抑制法の検討をしていく。
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