研究課題/領域番号 |
15K07053
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
大坪 義孝 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00380725)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞間情報伝達 / 傍分泌 / ヘミチャネル / ATP受容体 / 神経線維 |
研究実績の概要 |
味を検出する感覚細胞(味蕾細胞)は、神経伝達物質を周囲にまき散らす方法(傍分泌)によって、味情報を伝搬する。従って、傍分泌で放出された神経伝達物質は、本来の標的神経細胞に加え、近傍の細胞や神経終末までも刺激することになる。本研究では、味蕾という細胞集団の構造と機能に注目し、味蕾内における味蕾細胞および神経終末の空間配置と細胞ネットワークを用いた味応答の生成機構の関係を解明することを目的としている。 28年度の研究実施計画では、単一味蕾細胞の味蕾内構造および神経終末の味蕾内位置関係を明らかにすること、ATP受容体サブタイプ(P2X2)を発現する味神経線維と他の神経線維マーカー分子との発現関係および味蕾内位置を明らかにすること、隣接する2つの味蕾細胞の三次元再構成をおこない、2細胞間の形態特徴の観察および数値化をおこなうことを予定していた。単一細胞に色素を注入し、細胞型マーカー分子で免疫染色性を調べた結果、細胞型によって味蕾内での存在位置が異なる傾向があることを明らかにした。また、単一のⅡ型およびⅢ型細胞の形態は、複雑では無く、味孔へ向かって一本の突起を伸ばす比較的単純な形態であることが分かった。神経線維に発現するP2X2受容体の免疫染色性を調べたところ、P2X2免疫陽性神経線維の多くは、神経伝達物質放出に関与する蛋白質と共発現することを明らかにした。また、これらの神経線維は味蕾内全体に分布し、味孔付近まで侵入している神経線維が存在することも明らかにし、神経線維が味蕾内で複雑に分布している様子の可視化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度の実施計画では、①単一味蕾細胞の味蕾内構造および神経終末の味蕾内位置関係の解明、②P2X2受容体を発現する神経線維と他の神経線維マーカー分子との発現関係の解明、③隣接する2つ味蕾細胞の三次元再構成をおこない、2細胞間の形態特徴の観察および数値化をおこなうこととなっていた。①に関しては、味蕾構造が保存されている標本の単一味蕾細胞に蛍光色素を注入し、同一標本に対して免疫染色法を適用して、細胞型と単一味蕾細胞の形態および味蕾内での位置について明らかにした。Ⅱ型およびⅢ型細胞に注目して、味蕾内位置を調べたところ、これらの細胞型は、味蕾内での存在位置に違いがあることが分かった。また、これらの単一味蕾細胞の形態は比較的単純で、味孔へ向かって一本の突起を伸ばしていた。②に関しては、味蕾構造が保存されている標本に対して、P2X2およびSNAP25の二重免疫染色法を適用し、共焦点連続画像を撮影して、それらの味蕾内分布を調べた。P2X2免疫陽性神経線維の大部分は、SNAP25に対して免疫陽性を示すことを明らかにした。SNAP25はⅢ型細胞の細胞型マーカー分子としても使用される。SNAP25免疫陽性Ⅲ型細胞の近くに存在する神経線維がP2X2免疫陽性を示すことから、SNAP25免疫陽性神経線維終末からⅢ型細胞へ放出される伝達物質にATPが含まれている可能性を示唆した。本研究に関し、アセチルコリン受容体はⅢ型細胞に特異的に発現していることを報告した。アセチルコリンとATPが味神経から放出され、Ⅲ型細胞の味情報を修飾している可能性がある。このとき、味神経に発現するP2X2がオートレセプターとして機能し、アセチルコリンの放出量の調節に関与しているのかもしれない。③に関しては、共焦点レーザー顕微鏡が経年劣化のため故障し、研究に着手することが出来ていない。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は、共焦点レーザー顕微鏡が故障したため、同一味蕾に存在する二つの味蕾細胞間の形態特徴を明らかにする実験計画を変更する。28年度の研究成果で、Ⅲ型細胞と味神経細胞間の情報伝達にP2X2受容体が関与する可能性を示唆した。Ⅲ型細胞および神経細胞間情報伝達について着目し、Ⅲ型細胞の情報伝達に関与するイオンチャネルの同定およびチャネル特性についての研究を推進する。具体的には、Ⅲ型細胞の電気情報生成機構に関与する遺伝子サブタイプの同定、特に、Kチャネルに注目する。また、活動電位の繰り返し発火に関与するKチャネルの電気生理学的特徴も明らかにする。 P2X2を発現する神経線維は味蕾全体に分布し、そのほとんどがSNAP25と共発現していた。その他のATP受容体を含め、ATP受容体を機能的に発現している細胞の味蕾内分布および細胞型の同定を行う。Caイメージング法を用いて、ATPで味蕾細胞の基底部を刺激し、単一味蕾におけるCa応答特性を測定する。同一標本にていして、Ⅱ型及びⅢ型細胞マーカーで免疫染色を行い、応答した細胞型の同定とその味蕾内分布を明らかにする。また、Ⅲ型細胞マーカーとしてSNAP25を用いて、味神経線維と機能的にATP受容体を発現する細胞の味蕾内における位置関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規にマイクロマニピュレーターを購入予定だったが、マイクロマニピュレーターを2セット使用する実験が共焦点レーザー顕微鏡の故障により遂行できなくなり、購入を中止した。故障した共焦点レーザー顕微鏡の代替として、一般的な光学顕微鏡を用いて細胞型の同定をおこなった。その際必要な光源および光学フィルターを購入した。これらは、マイクロマニピュレーター購入予定額より低価格であったため、その差額分を次年度で使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子増幅装置を新規に購入する。遺伝子増幅に関する試薬類の購入費、同定した遺伝子の情報伝達に関与する役割を明らかにするため、特異的なイオンチャネルブロッカーの購入費、実験動物代、学会参加費および論文投稿費用として経費を使用する。
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