味を検出する味蕾細胞は、神経伝達物質を周囲にまき散らす方法(傍分泌)及び化学シナプスの二種類の方法によって、味情報を伝搬する。傍分泌で放出された神経伝達物質は、本来の標的神経細胞に加え、近傍の細胞や神経終末までも刺激することになる。一方、化学シナプスでは、特定の標的神経細胞への情報伝達が可能である。本研究では、味蕾という細胞集団の構造と機能に注目し、味蕾内における味蕾細胞および神経終末の空間配置と細胞ネットワークを用いた味応答の生成機構の関係を解明することを目的としている。 29年度の研究計画では、Ⅲ型細胞および神経細胞間の化学シナプスを介した情報伝達に着目し、Ⅲ型細胞の情報伝達に関与する電位依存性Kチャネル、早期不活性化型(A型)Kチャネルについて、発現する遺伝子サブタイプおよびチャネルの電気生理学的特徴を明らかにした。A型Kチャネル電流を形成するイオンチャネルの遺伝子は、7種類報告されている。このうち、味蕾には、複数種類が発現し、定量的解析により主要なサブタイプを同定した。また、A電流は細胞型依存的に発現すること、活性化電位は、単一指数関数で良く近似でき、不活性化電位および不活性化過程からの回復過程は、二重指数関数で良く近似できること、A電流の不活性化過程を修飾するリン酸化酵素の活性化剤は、不活性化過程の電流に大きな影響を与えなかったことを明らかにした。味蕾には多種多様な神経伝達物質受容体が細胞型依存的に発現したいる。リン酸化酵素の活性化剤の効果は明確ではなかったが、味蕾における細胞ネットワークは、細胞型依存的に発現するA型Kチャネルの電気生理学的性質を修飾し、味神経へ送られる味情報を修飾しているのかもしれない。
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