Rasは、低分子量G蛋白質の1つで、細胞の増殖・分化、遺伝子発現、細胞間接着などの重要な細胞機能の調節を行っている。Rasの構造とその生体分子機械としての分子機構 は良く研究されているので、その仕組みを巧みに利用して外部刺激で制御することができれば、細胞機能の人工的な調節が可能になる。本研究では、RasとRasの制御因子の機械的な仕組みに光応答性のフォトクロミック分子を光スイッチ(制御ナノデバイス)として導入 して、Rasの機能を光可逆的に制御することを目的としている。最終年度では、これまでに得られた実験結果を元に、最適化されたSOSペプチドと新規Ras阻害ペプチドにアゾベンゼン誘導体を導入してRasのGDP-GTP交換反応を光可逆的に制御することに成功した。 最適化SOSペプチドに二価架橋性アゾベンゼン誘導体ABDMを分子内架橋することにより、ペプチドの二次構造が著しく安定した。また、ABDMの光異性化に伴う構造変化によって、ペプチド二次構造が分的に変化することが確認された。ABDMを導入したペプチドは、SOSと競合阻害し、Rasのヌクレオチド交換反応を阻害することが確認された。またABDM-ペプチドは、Cis-Trans異性化に伴い有意に阻害活性が変化することが示された。これらのことから、フォトクロミック分子を導入したペプチドを用いて、Rasのヌクレオチド交換因子SOSのRasへの結合を光可逆的に制御することにより、RasのGDP-GTP交換反応を間接的にコントロールできることが示された。また、新規ペプチド阻害剤KRpep-2dの分子内S-S結合部位に水溶性スルホン化アゾベンゼン誘導体ょを導入して光可逆的にRasのGDP-GTP交換反応を光可逆的に制御できることが示された。
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