細胞外マトリックスの一つである基底膜は進化的に保存されたタンパク質群から構成されたシート状の構造をしており、細胞極性の維持や代謝を制御しています。また基底膜の恒常性は厳密に制御されており、破綻は疾患を引き起こします。例えばIV型コラーゲンの変異は、アルポート症候群と呼ばれる腎不全を引き起こし、基底膜タンパク質への自己免疫疾患として、グッドパスチャー症候群などが知られています。モデル生物である線虫C. elegansは分子イメージングが容易であり、基底膜をライブ観察することが可能です。これまでに、この実験モデルを用いて基底膜動態に異常を示す変異体の探索を行い、多数の変異体を確立しました。一つの変異体の変異遺伝子を同定したところ、GPIアンカーの修飾に関わるpigN遺伝子の変異である事を明らかにしました。pigN遺伝子は、GPIアンカーの基本骨格のマンノースにエタノールアミンを転移する働きが知られていますが、基底膜タンパク質の動態に関与することはこれまで報告されていません。また、ヒトではpigN遺伝子変異によりMCAHS1症候群とよばれる重篤な遺伝病(幼児期に死亡)を引き起こすことが報告されています。これまでに線虫C. elegansとヒト培養細胞を用いて解析を行い、pigNには従来知られているGPIアンカーへの修飾機能とは異なる機能があること(Non-canonicalと定義)を明らかにしました。この知見はpigN遺伝子変異により引き起こされるMCAHS1症候群の病態を理解するための知見になると考えています。
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