研究課題/領域番号 |
15K07068
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
宮本 洋一 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 細胞核輸送ダイナミクスプロジェクト, サブプロジェクトリーダー (10379084)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核輸送 / がん / Importin alpha / 遺伝子発現制御 / NLS / クロマチン |
研究実績の概要 |
本研究課題は、がん細胞で高発現し、かつ核内に多く局在する核局在化シグナル(NLS)受容体分子Importin-α1に着目し、特に乳がんの進展や悪性度、がん細胞特異的な遺伝子発現にどのように関与しているかを明らかにするものである。これまでに、異なる乳がん細胞亜型株(MCF-7、SK-BR-3、MDA-MB-231、MRK-nu-1)、並びに正常乳腺上皮細胞株(MCF-10A)における7種のヒトImportin-αサブタイプの発現状況をiTRAQ (isobaric tagging for relative and absolute quantitation)法、ウエスタンブロット法により解析した。さらに、Importin-βファミリー分子群やRan及びRan制御分子など核輸送関連分子についても、タンパク質発現プロファイルを作製した。これらの結果、複数のImportin-αサブタイプを含む多くの核輸送関連分子で乳がん細胞亜形株での発現亢進が見られ、がん細胞では核輸送システムが亢進している可能性が示唆された。また、Importin-αがクロマチンと相互作用するとする独自の知見をもとに、特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)解析を行った。実験では、抗体ロットや細胞培養条件ごとでの違いが生じないように、Importin-αの異なる領域を認識する複数の抗体と、異なるリソースより入手した同一細胞株を組み合わせて検討を行い、Importin-αが結合するゲノム領域の詳細な情報を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ChIP-seq解析の条件検討に多くの時間を費やしたが、複数の抗体と異なるリソース由来の細胞株を用いることにより、相互作用するDNA領域の特性を見出すことができた。一方で、発現解析の結果から、乳がん細胞では複数のImportin-αサブタイプが軒並み発現亢進していることも明らかになり、当初標的としていたImportin-α1だけでなく複数のサブタイプの動態も視野にいれて研究を進める必要性が生じた。この点は、今後のプロテオミクス解析、マイクロアレイ解析、免疫組織化学解析の一部計画見直しを検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
複数のImportin-αサブタイプを対象とするChIP-seq解析を検討する。特に、これまでの研究からImportin-α1とクロマチン結合特性が異なることが明らかとなっているサブタイプを優先に検討する。また、Importin-αが結合するクロマチン領域でどのような分子と相互作用し複合体を形成しているかを明らかにする目的で、ChIP後のサンプルに対するプロテオミクス解析を行う。さらに、Importin-α 特異的なsiRNAを用いてノックダウン実験を行い、発現が変化する分子をマイクロアレイ法により検討する。これらの結果を統合することで、Importin-αが関わるがん特異的転写制御機構を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの解析から、Importin-αのChIP-seq解析には抗体の選定や実験の諸条件を当初の予想以上に詳細に検討する必要性があることが分かり、それらの検討に多くの時間を割いた。また、複数のサブタイプが乳がん細胞亜形株で異なる発現パターンをとることが明らかとなり、Importin-α1だけでなく他のサブタイプも含めた形で計画を立てる必要性があった。以上のことから、解析に必要な相当額を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
Importin-αサブタイプに対するChIP-seq解析、ChIPサンプルに対するプロテオミクス解析、乳がん細胞亜形株に対するsiRNAとマイクロアレイ解析を実施する。また、乳がん組織資料を用いたSRM解析、免疫組織化学解析も合わせて行う。これらの解析を通して、Importin-αが乳がん細胞で高発現し、核内に局在する生理的意義を明かにしていく。
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