本研究課題は、乳がん細胞で高発現し、かつ核内に多く局在する核局在化シグナル(NLS)受容体分子Importin-α1が、がん細胞特異的な遺伝子発現にどのように関与しているかを明らかにするものである。これまでに、異なる乳がん細胞亜型株(MCF7、SK-BR-3、MDA-MB-231、MRK-nu1)、並びに正常乳腺上皮細胞株(MCF10A)における発現状況をisobaric tagging for relative and absolute quantitation (iTRAQ)法、ウエスタンブロット法により解析した。また、特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-sequence)を行い、Importin-α1がクロマチンと特異性を持って相互作用することを明らかにした。実験では、抗体ロットや細胞培養条件ごとでの違いが生じないように、Importin-α1の異なる領域を認識する複数の抗体と、異なるリソースより入手した同一細胞株を組み合わせて検討を行い、Importin-α1が結合するゲノム領域の詳細な情報を取得した。さらに、MCF-7細胞をImportin-α1 siRNAを用いてノックダウンし、発現の変化する遺伝子をマイクロアレイ解析により明らかにした。加えて、Importin-α1がどのような分子とクロマチン上で複合体を形成しているか、その複合体と上記マイクロアレイにより変化する遺伝子との相関関係を明らかにした。以上の結果から、Importin-α1がクロマチン上でどのような複合体を形成することが、がん特異的な遺伝子発現に影響を与えるか明らかにした。
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