本研究では、細胞の核―細胞質間蛋白質輸送による胚発生の制御機構を明らかにする。申請者は、マウス胚性幹細胞(ES細胞)を用いて核―細胞質間輸送因子が細胞分化に深く関わることを明らかにした。核―細胞質間輸送因子は、動物の初期胚発生に重要な役割を果たすことが示唆されるにも関らず、そのメカニズムは明らかではない。そこで、核―細胞質間輸送因子であるimportinα分子に注目し、その遺伝子欠損による表現型解析を通し、動物の初期胚発生過程での機能を解明することを目的とした。 27年度は表現型解析を進め、28年度は合わせて核―細胞質間輸送因子発現の意義を調べるための核―細胞質間輸送因子発現操作細胞株の作成と性質の解析を行った。そして、核―細胞質間輸送因子の発現抑制が細胞の増殖を抑える一方、過剰発現により細胞の増殖が促進することを見つけた。29年度は28年度に見出した現象の分子メカニズム解析をめざし、核―細胞質間輸送因子がいかにして細胞増殖にかかわるかの一端を明らかにしつつある。結果、核―細胞質間輸送因子の下流に細胞周期関連分子のネットワークが存在することを見つけた。 核―細胞質間輸送因子には動物種に応じて構造や性質の類似した複数のファミリー分子が存在するが、それぞれに組織特異的発現を示すため、胚発生においても異なる機能を果たすと考えられる。そのため、今後はこれまでの研究結果を踏まえ、ファミリー分子間の差異を明らかにする。
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