研究課題
最終年度は、マボヤ生殖細胞系列の転写制御における母性局在因子Popk-1およびZf-1の機能を、追試により確かなものとし論文を投稿した。また生殖細胞関連遺伝子の胚性発現がおこる直前から、H3K27me3のレベルが体細胞のそれに比して上昇することを見出した。この時期、生殖細胞系列ではH3K4me3のレベルも高いので、抑制と活性マーカーが同在するPoised chromatin状態が生殖細胞系列と体細胞系列の分離に関わる可能性が示唆された。プレリミナリーではあるが、H3K27me3の阻害剤処理胚において、生殖細胞系列で体細胞遺伝子の異所的発現を検出した。さらに、ワカレオタマボヤ胚生殖細胞系列では、32細胞期にRNAポリメラーゼIIリン酸化の消失が観察された。よってRNA-seqの情報(大阪大学小沼健助教)を基に、in situ hybridizationによる卵割期の網羅的な遺伝子発現の解析を行った。研究期間3年間において明らかにしたことは以下の通りである。マボヤ初期胚生殖細胞系列における転写制御において、卵割に伴い生殖細胞系列に受け継がれる3種の母性局在因子:Popk-1、Pem、Zf-1が、生殖細胞系列におけるグローバルな転写抑制と、抑制解除・生殖細胞関連遺伝子の胚性発現に関与する。また、エピジェネティック制御により胚性遺伝子発現後における体細胞遺伝子発現の継続的な抑制をすることを示唆した。また、マボヤPemと近縁ユウレイボヤのPemでは異なるドメインを使って転写抑制をすることから、近縁種間でも転写制御機構に多様性が見られることを明らかにした。さらに、ゲノムにPemのないワカレオタマボヤ胚では、母性局在因子に依存した生殖細胞系列形成が行われること、生殖細胞のみに運命が限定された32細胞期になってはじめて生殖細胞系列での転写抑制が起こることを示唆した。
すべて 2017 その他
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/asamushi/kumano_lab/