本研究では,翅成虫原基内で隣接する二つの領域,pouch領域とhinge領域に着目し,pouch領域を遺伝学的に切除後にhinge細胞がどのようにしてpouch領域を再構築するのかを明らかにしたい.この目的のために,(1) pouch領域の切除と,(2) hinge由来細胞のトレーシングの遺伝子発現操作のために,当初GAL4/UASシステムとQ-システム(QF/QUAS)を併用することを考えていたが,GAL4/UASシステムと同じく遺伝子発現のON/OFFをGAL80で制御できるLexA::GAD/LOPシステムを用いるほうが,Q-システムより本実験系では適していることが分かり系に変更を加えた.本研究では器官再生プロセスを発生と切り離して解析するために,餌にerg2酵母を用いて幼虫の蛹化を抑制した.また発生停滞中の最終齢幼虫においてpouch領域を遺伝学的に切除すると,hinge領域を含む損傷部位周辺領域の細胞で細胞周期re-entryが起こり,細胞の形態を変えpouch方向へ移動する様が観察された.さらに細胞移動の様子を詳しく解析するために,共焦点顕微鏡で取得した画像をもとに3D再構築を行い解析し,創傷を塞ぐための細胞移動は,大量の死細胞からなるpouch領域の基底膜側を進み,結果として死細胞のほとんどが成虫原基から脱落することなく,原基細胞層と囲芽膜(peripodial membrane)との原基腔内に残されることが分かった.また,翅成虫原基のpouch領域・hinge領域で特徴的な発現パターンを示す Wingless (Wg) の発現パターンは,pouch損傷により一旦失われるが,その後約72時間かけて完全に再構築されることを継時的な観察により明らかにした.
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