研究課題/領域番号 |
15K07077
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
稲木 美紀子 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10747679)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 左右非対称性 / 細胞キラリティ / 細胞移動 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、ショウジョウバエ胚の後腸をモデルとして、内蔵の左右非対称性の形成機構を研究している。ショウジョウバエ胚の後腸は左右対称な構造として形成された後、反時計回りに90°捻転し、左右非対称な構造となる。このとき、捻転前の後腸上皮細胞の頂端面が左に傾いているという、細胞キラリティ(鏡像と重ならない性質)が重要な働きを持つ可能性が示されてきたが、詳細な機構はわかっていない。研究代表者は、連携研究者と共に2D Vertexモデルを用いたシミュレーションを行い、左右非対称な捻転に寄与する細胞挙動を予測した。それにより、細胞が下に位置する細胞に対して相対的な位置を変え、捻転方向にスライドするという新規の細胞挙動と、収斂伸長等でみられる細胞インターカレーションが予測された。実際に、これらの細胞挙動がin vivoで見られるかを調べるため、まず、ショウジョウバエ胚後腸のライブイメージング系を確立し、細胞核と細胞境界を同時に可視化し、タイムラプス観察を行うことを可能にした。細胞核の位置を指標にして、個々の細胞の動きを追跡すると、実際に細胞が、下(胚の中の後方)に位置する細胞に対して捻転方向にスライドするように動くことが確かめられた。また、捻転前の細胞キラリティおよび捻転方向が反転する変異体Myosin31DFでは、細胞が野生型とは逆方向、すなわち変異体の捻転方向にスライドすることがわかった。これらの結果から、細胞スライドは左右非対称な捻転に重要であると考えられ、捻転前のキラリティは細胞スライドの方向性に反映されることが分かった。また、細胞インターカレーションは、左右から同等の頻度でみられることがわかり、左右非対称な捻転にはあまり寄与しないと考えられた。細胞境界の解析では、野生型とMyosin31DF変異体で逆方向の角度変化がみられることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞核のライブイメージングによる細胞移動の解析に関しては、シミュレーションの予測通りに、細胞が下に位置する細胞に対して捻転方向にスライドするという細胞移動が確かめられた。また、組織の変形による影響を排除するため、後腸の管の背側だけでなく、腹側も計測すべきであるという問題点に気づき、共同研究により二光子顕微鏡を用いた解析を行い、腹側の細胞に関しても同様の動きがみられることを確認した。後腸の捻転方向が反転するMyosin31DF変異体に関しても解析が終了したので、当初の計画以上に進展している。 細胞境界の解析に関しては、細胞収縮の度合いを長さの変化から測定する事が難しいことがわかり、細胞境界の角度変化を測定した。野生型と逆位の変異体において、逆方向の細胞境界の角度変化を観測し、順調に進んだと言える。 RNA干渉を用いたアクチン関連分子のスクリーニングに関しては、胚期ではRNA干渉の十分な効果が得られないことがわかり、成虫の精巣の逆位を指標に調べ直すことにしたため、継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
他の後腸捻転に関する変異体に関しても細胞移動の解析を行う。後腸の左右性がランダム化するE-cadherinの変異体に関して、細胞核と細胞境界を可視化できるショウジョウバエ系統を作製し、タイムラプス観察を行う。後腸の捻転がランダム化したとき、細胞の動きは、捻転方向と一致するのか、あるいは細胞の動きもランダム化するのかについて検証する。 細胞境界の解析においては、これまで、発現量が多いため、すべての細胞境界を可視化するMyr-GFPを用いていたが、頂端面での解析を行うため、頂端面を特異的に可視化できるlife-act-GFPを用いた観察を行う。 RNA干渉を用いたアクチン関連分子のスクリーニングに関しては、成虫の精巣の逆位を指標に表現型の観察をすすめ、完了する予定である。候補となった遺伝子については、その突然変異体を用いて詳細な機能解析を行うが、突然変異体では致死になる可能性が高いので、モザイク解析や複数のRNA干渉系統を用いた実験も試みる。
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