研究課題/領域番号 |
15K07078
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
川村 和夫 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 教授 (30136361)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / TFAM / ヒストン脱アセチル化 / ヒストンメチル化 / 加齢 / 出芽 / ホヤ |
研究実績の概要 |
原索動物ミサキマメイタボヤでは、ミトコンドリアの遺伝子機能が加齢に伴い低下する。しかし、その機能は出芽に伴い復活する。ミトコンドリア遺伝子機能を加齢・出芽サイクルに連動させるカギ分子の一つは、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)である。TFAMの発現を正及び負に調節する仕組みを詳細に検討した。 TFAMの発現を負に調節する2つの因子を発見した。一つは転写因子YY1であり、他の一つは転写コリプレッサーSirtuin6である。これらの発現部位と時期は互いによく似ていた。PmSirtuin6 mRNAをホヤに導入しChIP解析したところ、PmTFAM遺伝子上流のコアプロモーター領域で、ヒストンH3K9の脱アセチル化がおきていた。YY1と相互作用するYAF2は、ring fingerドメインをもち、タンパク-タンパク相互作用を担う。YY1, YAF2, Sirtuin6タンパクを調製し、アフィニティー共沈実験を行ったところ、この3つのタンパクは相互作用できることが生化学的に証明された。YY1がYAF2を介してSirtuin6をTFAM遺伝子にリクルートする新規カスケードが想定される。 ミトコンドリアの活性化は、出芽特異的エピジェネティック因子TC14-3によって実行される。増殖と成長のシグナル伝達Akt及びTorを阻害すると、TC14-3と同様の効果が得られることがわかった。TC14-3とTor阻害剤PP242は、polycomb group Eedの発現を促進し、YY1やSirtuin6のヒストンH3K27トリメチル化を誘発した。トリメチル化がおきると、YY1やSirtuin6の遺伝子発現が抑制された。Polycomb groupは、如何にしてYY1やSirtuin6にリクルートされるのか。そこにミトコンドリア活性化の仕組みを解くカギがあることが浮き彫りとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究2年目は、ミトコンドリアの遺伝子機能を調節する転写因子とコリプレッサーの機能をタンパクレベルで解明することに主眼を置いた。ChIP法を用いて、Sirtuin6がPmTFAMコアプロモーター領域でヒストンを脱アセチル化していることを証明した。ヒストンH3K9, H3K14, H3K27のうち、H3K9が最も強くアセチル化されていた。次に、GST-tag付きYAF2、His-tag YY1、およびHis-tag Sirtuin6を可溶性タンパクとして抽出することを試み、すべて成功した。転写因子とコリプレッサーのタンパク-タンパク相互作用をプルダウンアッセイで調べたところ、YAF2が共存するときのみ、YY1、Sirtuin6、もしくは両者が共沈した。これらの結果は、YY1とYAF2の複合体が、Sirtuin6をDNA(結果的にヒストン)にリクルートできることを強く示唆した。また、フランスの研究グループと国際共同研究を実施し、単体ボヤ-群体ボヤのトランスクリプトーム解析を終了した。これにより、転写因子とコファクターの関係を網羅的に解析する手掛かりが得られた。これらの成果は特筆すべき進捗状況と自己評価する。他方、YY1-YAF2-Sirtuin6の複合体がPmTFAMコアプロモーター領域のDNAに結合することを直接証明する実験、すなわち、ゲルシフトアッセイもしくはフットプリント法はまだ成功していない。また、本研究をまとめた論文2編を投稿中であるが、まだ公表に至っていない。これらの結果を総合的に判断し「おおむね順調」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度(本研究プロジェクトの最終年度)は、(1)転写因子とコファクターのコラボレーションがTFAMの発現を調節する仕組みを、ゲルシフトアッセイ等の方法を用いて詳細に明らかにする。同様に、Polycomb groupをDNA-ヒストンにリクルートする仕組みを明らかにする課題も重要である。(2)核―ミトコンドリア相関を担う分子がどのような仕組みで、核からミトコンドリアの受け渡されるかを明らかにする。(2)について、その考えに至った理由・推進方策等を下記に示す。 平成28年度までの成果は、出芽ホヤの抑制性転写因子(YY1)やコリプレッサー(Sirtuin6)が、ヒストン修飾に依存してミトコンドリア転写因子(TFAM)やミトコンドリア機能調節因子(Prohibitin2)の発現を負に調節していることを示した。また、出芽の際、核の周りにミトコンドリアが密集することを新たに発見した。細胞運動阻害剤(例えばblebbistatin)で処理すると、ミトコンドリアは密集しなくなるだけでなく、活性化が抑制された。 これらの結果より、核の周りに密集することで、ミトコンドリアは核から直接遺伝子産物を得ているとの新規仮説に至った。この仮説を検証するため、次のような研究計画を立てた。①ホヤのホモジェネートから、ミトコンドリア画分を分離し、その画分がYY1, Sirtuin6, TFAM, Prohibitin2などの核由来mRNAを含んでいるいないかをRT-PCR法で調べる。②核からミトコンドリアに提供されるすべてのRNAを、トランスクリプトーム解析により同定する。そのため「先進ゲノム支援」の公募に応募し、次世代シーケンサーによる支援を仰ぐ。(3) 同定したRNAのうち、興味深い分子種の in vitro 発現系を構築し、ミトコンドリア調節に果たす役割を in vivo で明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該金額(107円)に合致する消耗品購入予定がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
当該金額を次年度に繰り越し、有効利用することとした。
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