マウスの胎仔卵巣では、生殖細胞が顆粒膜細胞に覆われて原始卵胞を形成する。この顆粒膜細胞には、初期型と後期型の2種類あり、それぞれの細胞系譜特異的に発現するタモキシフェン誘導型のCreERマウス(Foxl2-GFP-CreERT2及びLgr5-GFP-CreERT2)とCre誘導型Tomato-reporterマウスを用いて明らかにすることを目指した。初期型の顆粒膜細胞を標識できるFoxl2-GFP-CreERT2を用い、その陽性細胞の観察を行った。だが、その陽性細胞の単離を行う段階で、申請者が現所属先へと異動となった。使用していた遺伝子改変動物の移管手続きを進めていたが、熊本地震により所属先の動物管理施設が損傷を受けて遺伝子改変動物を受け入れが困難となった。また、異動先には、Tomato陽性の標識した細胞を集めるセルソーターの設備がなかったため、これらの遺伝子改変マウスを用いらずに実験が進められるように、マウスの胎仔卵巣を構成する2つの細胞系譜である生殖細胞と生殖腺体細胞の形成を共通で制御する分子機構の解明を目指して研究を進めた。我々は、始原生殖細胞と生殖腺体細胞の前駆細胞の両方の形成を制御する転写因子Six1とSix4を見出しており、生殖腺体細胞の前駆細胞集団の形成過程では、その運命決定因子であるAd4BP/Sf1/Nr5a1を、始原生殖細胞の前駆細胞集団の形成過程では、その運命決定因子であるBlimp1/Prdm1を、それぞれの転写を活性化するポジティブフィードバック機構を介してその発現を安定的に増強することで、前駆細胞集団の形成に寄与していることを明らかにした。さらに、生殖細胞形成に関わる因子との相互作用を検証した結果、BMPシグナルの下流でSix1とSix4が働くことが明らかとなった。
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