研究課題/領域番号 |
15K07081
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小川 峰太郎 熊本大学, 発生医学研究所, 教授 (70194454)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胚性幹細胞 / 造血性内皮細胞 / 造血幹細胞 / CD41 / Runx1 / CXCR4 / CXCL12 |
研究実績の概要 |
確実に造血幹細胞に分化する能力を持つ造血性内皮細胞をマウス胎仔から取り出し、造血性内皮「標準細胞」として決定することを目的に研究を進めた。Runx1-EGFPレポーターマウス胎仔を用いて、CD31+ VE-カドヘリン+内皮細胞におけるRunx1とCD41の発現を解析したところ、Runx1+細胞の一部にCD41+細胞が含まれていた。血液細胞分化能はCD41+細胞に限局されることから、Runx1よりもCD41の方が造血性内皮細胞のマーカーとして適していると考えられた。マウス胎仔から取り出したCD45- CD31+ VE-カドヘリン+ CD41+細胞には、骨髄造血再建能を持つ細胞が一定の頻度で含まれていることが分かった。この細胞を造血内皮「標準細胞」として、OP9ストロマ細胞株と凝集培養を行い、造血幹細胞を試験管内で誘導できることが確かめられた。 ES細胞から分化誘導したCD45- CD31+ VE-カドヘリン+ CD41+細胞は、内皮細胞コロニー形成能と血球分化能を高い頻度で示し、血球分化能を持つ細胞の5個に1個が、同時に内皮細胞コロニーも形成する二分化能を持つことが分かった。VE-カドヘリン+ CD41+細胞の約20%はCXCR4を発現しており、二分化能を持つ造血性内皮細胞はこのCXCR4+細胞に濃縮された。ES細胞からVE-カドヘリン+ CD41+細胞を分化誘導する過程で、CXCR4のリガンドであるCXCL12を添加したところ、内皮細胞コロニー形成能を持つ細胞と二分化能を持つ細胞が特異的に減少した。以上の結果は、CXCR4シグナルが造血性内皮細胞の内皮細胞分化プログラムを抑制することにより、その二分化能を調節することを示唆しており、ES細胞から造血性内皮細胞を経て造血幹細胞を誘導する培養系を確立する上で重要な知見を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨髄造血再建能を持つ造血性内皮「標準細胞」をマウス胎仔から取り出し、これを試験管内で培養して造血幹細胞に分化させる「幹細胞誘導条件」は概ね確立しつつある。また、ES細胞から中胚葉細胞と造血性内皮細胞を効率よく分化誘導する培養条件を昨年度に確立し、今年度は、ES細胞から誘導した造血性内皮細胞の分化能力を調節するシグナル分子を同定した。このように、マウス胎仔細胞を用いた分化誘導の標準モデルの確立と、ES細胞の分化誘導条件の検討が進みつつあり、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
造血性内皮「標準細胞」から造血幹細胞を誘導する「幹細胞誘導条件」は概ね確立したので、次に、造血性内皮「標準細胞」に分化する以前の造血性内皮細胞を標準化する培養条件を決定する。標準化以前の造血性内皮細胞は、そのまま移植しても骨髄造血再建能を示さないが、適切な「標準化条件」で培養すれば造血性「標準細胞」と同じ能力を獲得するはずである。「標準化条件」と「幹細胞誘導条件」を連続して適用すれば、骨髄造血再建能を持たない造血性内皮細胞から造血幹細胞が分化誘導できると考えられる。次に、ES細胞から分化誘導した造血性内皮細胞を用いて、同じストラテジーで造血幹細胞が誘導できるか確認する。できないとすれば、ES細胞から造血性内皮細胞までの発生段階のどこかが標準モデルを反映していないことになる。この場合、マウス胚から中胚葉細胞を単離して、造血性内皮細胞に分化誘導する「造血性内皮細胞誘導条件」の決定が必要になる。ES細胞から誘導した中胚葉細胞を「造血性内皮細胞誘導条件」、「標準化条件」、「幹細胞誘導条件」で順次培養し、造血幹細胞に分化誘導できるか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
造血性内皮細胞を単離するためのマーカーの決定と、ES細胞から誘導した造血性内皮細胞の性質の解析に時間を要したことにより、動物実験(マウス胎仔から単離した造血性内皮細胞の培養と移植)の数が当初計画を下回ったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、マウス胎仔から単離した造血性内皮細胞の培養と移植実験を効率的に進めるために、交配日確認マウスの購入に重点的に充てる計画である。
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