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2015 年度 実施状況報告書

エピジェネティック制御を介した遺伝子転用進化の研究

研究課題

研究課題/領域番号 15K07082
研究機関長浜バイオ大学

研究代表者

荻野 肇  長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (10273856)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード発生 / 進化 / 感覚器プラコード / 神経堤 / エピジェネティック制御 / ツメガエル / ナメクジウオ / 遺伝子転用
研究実績の概要

まず研究実施計画に従い、クロマチン免疫沈降解析(ChIP)によってJmjd3標的遺伝子群の同定を試みた。Mycタグ付きのJmjd3をツメガエル胚に発現させ、抗Myc抗体でJmjd3が結合するクロマチン断片を回収したが、その精製度は、次世代シーケンサーによるChIP-seq解析に十分ではなかった。クロマチンに対するJmjd3の結合が弱いため、ホルムアルデヒドによるクロスリンクを強くして免疫沈降の回収率を上げる必要があったが、それが精製度を下げる原因になったと考えられる。
そこで代わりの実験として、Jmjd3を強制発現させた胚からRNAを回収し、感覚器プラコードや神経堤の形成に関わる遺伝子群の発現解析をおこなった。その結果、感覚器プラコード形成遺伝子の中では、noggin、noggin2、dmrta2、foxi2、pitx1等の発現が、神経堤形成遺伝子の中ではpax3、phox2、tead1等の発現がJmjd3によって異所的に活性化することが明らかになった。
nogginファミリーはBMP阻害因子をコードし、脊椎動物の胚では神経板形成期にその前部周縁の予定感覚器プラコード領域で発現する。これまでに、ナメクジウオのnogginオーソログは、神経板期に発現しないことが報告されており、それゆえ予定感覚器プラコード領域におけるnogginファミリーの発現は、脊椎動物の祖先種で新たに獲得されたと考えられる。一方、研究代表者は、Jmjd3が脊椎動物の祖先種において、類似した脱メチル化因子から遺伝子重複により派生したことを発見している。これらの知見と上記の実験結果から、感覚器プラコード形成に必要なnogginファミリーの発現は、Jmjd3の引き起こしたコ・オプション(遺伝子転用)の結果である可能性が高いと考えられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

クロマチンに対するJmjd3の結合が予想外に弱かったため、当初予定していたChIP-seq解析は中止したが、その代わりにおこなったRNA発現解析により、Jmjd3の下流で活性化する遺伝子群を同定することに成功した。その中に含まれていたnogginファミリーは、感覚器プラコード形成の初期過程で発現することが知られている。また、実績概要で述べたように、感覚器プラコード原基でのnogginファミリーの発現は、脊椎動物の祖先種で起きたコ・オプションにより獲得されたと考えられる。それゆえ本研究の初年度でありながら、その成果は感覚器プラコードの獲得に働いたコ・オプション機構の解明に対して、大きなヒントを与えるものとなった。他にも、Jmjd3の下流遺伝子群として同定したものの中には、神経堤形成遺伝子群も含まれており、予定通りそれらの解析も次年度におこなう予定である。したがって当年度の研究目的は概ね達成したと言える。

今後の研究の推進方策

当初の研究実施計画に従って進める。次年度は以下の実験をおこなう。
(1)Jmjd3の直下で働くコ・オプション遺伝子の同定
感覚器プラコード形成遺伝子群に関しては、nogginやnoggin2をJmjd3が直接制御するかどうか、ChIP-qPCR法により調べる。具体的には、Mycタグ付きのJmjd3をツメガエル胚に発現させてから、抗Mycタグ抗体で免疫沈降によりクロマチン断片を回収し、その中にnogginやnoggin2のシス調節領域が濃縮されているかどうかを調べる。また、nogginやnoggin2の発現を、Jmjd3ノックダウン胚において調べ、その発現がJmjd3に依存するかどうか検討する。dmrta2やfoxi2、pitx1については、Jmjd3ノックダウン胚における発現を調べると共に、それらのナメクジウオオーソログが感覚器プラコードの相同組織で発現するかどうか解析し、脊椎動物への進化の過程でコ・オプションを起こした可能性を検討する。神経堤形成遺伝子群に関しては、pax3、phox2、tead1について、dmrta2やfoxi2、pitx1と同様な解析をおこない、それらの発現のJmjd3依存性と、コ・オプションを起こした可能性を検討する。
(2)コ・オプション遺伝子ネットワークの解析
nogginやnoggin2は、感覚器プラコード形成を制御する遺伝子カスケードの極めて上流に位置する遺伝子である為、特にこれらに注目して解析を進める。具体的には、アンチセンスモルフォリノオリゴあるいはゲノム編集技術によって、nogginやnoggin2の発現を抑制したツメガエル胚を作製し、pax6やfoxe3等の既知のコ・オプション遺伝子群の発現が失われるかどうか調べ、Jmjd3からpax6やfoxe3等に至るコ・オプションカスケードを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

研究実績の概要において述べたように、実験結果に従ってChIP-seq解析の代わりにRNA発現解析をおこなったので、その差額分の支出が減少した。

次年度使用額の使用計画

Jmjd3の下流遺伝子群の同定という本年度の目的は、Jmjd3の強制発現胚を用いたRNA発現解析により達成されたが、それら下流遺伝子をJmjd3が直接制御するかどうかについては、ChIP-qPCR実験により検討する必要がある。今回生じた次年度使用額と次年度分として請求した助成金は、このChIP-qPCR実験と、当初から予定していた次年度の実験を遂行するのに用いる。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2016 2015 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Epigenetic modification maintains intrinsic limb-cell identity in Xenopus limb bud regeneration.2015

    • 著者名/発表者名
      Hayashi, S., Kawaguchi, A., Uchiyama, I., Kawasumi-Kita, A., Kobayashi, T., Nishide, H., Tsutsumi, R., Tsuru, K., Inoue, T., Ogino, H., Agata, K., Tamura, K. and *Yokoyama, H.
    • 雑誌名

      Dev. Biol.

      巻: 406 ページ: 271-282

    • DOI

      10.1016/j.ydbio.2015.08.013

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] 全ゲノム重複に伴うシス調節配列の進化.2015

    • 著者名/発表者名
      荻野 肇
    • 雑誌名

      生体の科学

      巻: 66 ページ: 256-260

    • DOI

      http://dx.doi.org/10.11477/mf.2425200165

  • [学会発表] Xenopus as a useful resource for studying gene evolution and disease-causing mutations.2016

    • 著者名/発表者名
      *Ogino, H.
    • 学会等名
      International Meeting on Aquatic Model Organisms for Human Disease and Toxicology Research
    • 発表場所
      自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター,愛知県岡崎市
    • 年月日
      2016-03-18
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] ツメガエルの尾部再生におけるH3K27メチル化因子と脱メチル化因子の異なる役割.2015

    • 著者名/発表者名
      川口 茜,上口 真治,笠原 博人,*荻野 肇
    • 学会等名
      第38回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸国際会議場,兵庫県神戸市
    • 年月日
      2015-12-03
  • [学会発表] Xenopus laevis全ゲノム解析:同祖遺伝子の進化過程におけるシス変異とコード変異の相互作用.2015

    • 著者名/発表者名
      *荻野 肇,越智陽城,川口 茜
    • 学会等名
      第38回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸国際会議場,兵庫県神戸市
    • 年月日
      2015-12-01
  • [学会発表] Xenopus laevis全ゲノム解析:転写因子をコードする遺伝子群の初期発生および成体器官における発現パターンの解析.2015

    • 著者名/発表者名
      *渡部 稔,回渕 修治,安岡 有理,伊藤 道彦,近藤 真理子,越智 陽城,荻野 肇,福井 彰雅,平良 眞規,木下 勉
    • 学会等名
      第38回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸国際会議場,兵庫県神戸市
    • 年月日
      2015-12-01
  • [学会発表] Xenopus laevis全ゲノム解析:異質四倍体アフリカツメガエルにおけるHandとTwistの発現の共進化.2015

    • 著者名/発表者名
      *越智 陽城,鈴木 菜花,川口 茜,荻野 肇
    • 学会等名
      第38回日本分子生物学会年会
    • 発表場所
      神戸国際会議場,兵庫県神戸市
    • 年月日
      2015-12-01
  • [学会発表] ヒストン脱メチル化因子 Jmjd3 による眼形成遺伝子pax6の発現制御.2015

    • 著者名/発表者名
      川口 茜,越智 陽城,須藤 則広,*荻野 肇
    • 学会等名
      日本遺伝学会第87回大会プレナリーワークショップ
    • 発表場所
      東北大学 川内北キャンパス,宮城県仙台市
    • 年月日
      2015-09-24
  • [学会発表] ゲノム重複に伴うシス調節配列の進化 ―ネッタイツメガエルとアフリカツメガエルを用いたアプローチ―.2015

    • 著者名/発表者名
      *荻野 肇
    • 学会等名
      次世代両生類研究会 第一回会合「両生類研究の将来を考えるーゲノム科学による有尾・無尾両生類研究の橋渡し」
    • 発表場所
      自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター,愛知県岡崎市
    • 年月日
      2015-08-24
    • 招待講演
  • [学会発表] ツメガエル再生細胞の増殖分化調節におけるヒストンメチル化制御因子群の機能分担.2015

    • 著者名/発表者名
      川口 茜,*荻野 肇
    • 学会等名
      次世代両生類研究会 第一回会合「両生類研究の将来を考えるーゲノム科学による有尾・無尾両生類研究の橋渡し」
    • 発表場所
      自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター,愛知県岡崎市
    • 年月日
      2015-08-24
  • [学会発表] Differential roles for the H3K27 methylase and demethylases in Xenopus tail regeneration.2015

    • 著者名/発表者名
      Kawaguchi, A. and *Ogino, H.
    • 学会等名
      第48回日本発生生物学会大会
    • 発表場所
      つくば国際会議場,茨城県つくば市
    • 年月日
      2015-06-03
  • [学会発表] Identification and characterization of regeneration signal response enhancers in Xenopus pronephros.2015

    • 著者名/発表者名
      Suzuki, N., Hirano, K., Ogino, H. and *Ochi, H.
    • 学会等名
      第48回日本発生生物学会大会
    • 発表場所
      つくば国際会議場,茨城県つくば市
    • 年月日
      2015-06-03
  • [備考] 教員の紹介(荻野 肇)-長浜バイオ大学

    • URL

      http://www.nagahama-i-bio.ac.jp/research/%E6%95%99%E5%93%A1%E3%81%AE%E7%B4%B9%E4%BB%8B%EF%BC%88%E8%8D%BB%E9%87%8E-%E8%82%87%EF%BC%89/

URL: 

公開日: 2017-01-06  

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