研究実績の概要 |
昨年度は、Jmjd3が眼形成転写因子群と協調的に働いて、遺伝子活性化に作用するクロマチン制御因子群や、逆に抑制的に作用するクロマチン制御因子群を共に活性化することを発見した。このことはJmjd3がクロマチン制御の複雑な連鎖を引き起こす可能性を示唆している。 一方、Jmjd3の直接の作用とコ・オプションとの関係を調べる為には、標的シスエレメントの同定が必要である。そこで本年度はナメクジウオのHedgehog遺伝子(Amphi-Hh)に注目して、候補領域の同定を試みた。Amphi-Hh遺伝子は脊索の前端部と神経管、咽頭内胚葉で発現する(Shimeld SM, 1999)。脊椎動物ではゲノム重複により、Shh遺伝子、Ihh遺伝子、Dhh遺伝子の3つのパラログが生じており、このうちIhhは神経堤(と由来する鰓弓)及び眼で発現する(Aguero TH et al, 2012)。またShhは第1及び第2イントロンに、中脳、後脳、脊索で活性化するエンハンサーを持つ(Muller et al., 1999; Ertzer et al., 2007)。ナメクジウオと脊椎動物のPax6遺伝子の構造比較研究から、エキソン・イントロンに対するエンハンサーの相対的位置がオーソログ間で保存されていることが示唆されたので、Amphi-Hh遺伝子の第1及び第2イントロンをクローニングし、それぞれをGFP遺伝子に連結してトランスジェニックツメガエル胚を作製した。これらのGFPの発現を解析したところ、いずれも眼と鰓弓、中脳と後脳でエンハンサー活性を示すことがわかった。この結果から、ゲノム重複後にIhhは神経堤エンハンサーを、Shhは全脊索エンハンサーを獲得して、コ・オプションを起こしたことが示唆された。今後はこれらのエンハンサー対するJmjd3の作用機序の解析が必要である。
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