研究課題
アフリカツメガエルの未成熟卵母細胞および成熟卵母細胞(未受精卵)を主な実験材料として、次の5つのテーマに取り組んだ。1、プロゲステロン依存性の卵成熟反応過程における卵表層形態の経時変化と細胞内マップキナーゼ(MAPK)のリン酸化状態の関係性の解析(MAPK阻害剤U0126を用いた解析を含む)、2、プロゲステロンにより卵成熟反応を完了した成熟卵母細胞の長期培養(~96時間)による卵表層形態、MAPKリン酸化状態、およびアポトーシス実行性カスパーゼのプロテアーゼ活性の経時変化、3、未成熟卵母細胞および成熟卵母細胞におけるFocal Adhesion Kinase(FAK)の特異抗体を用いた同定、細胞内分布、タンパク質発現量およびリン酸化状態の解析、4、成熟卵母細胞の低密度非イオン性界面活性剤(Triton X-100)不溶性膜成分(膜マイクロドメイン)を抗原として作成したラットモノクローナル抗体(3種類)の標的タンパク質の探索(免疫沈降法、間接蛍光抗体法など)と分子同定(マススペクトロメトリによる質量分析とデータベース検索、ならびに抗ペプチド抗体を用いたターゲット候補タンパク質の再同定など)、5、学外研究者との協働による、膜マイクロドメイン局在タンパク質ウロプラキン3あるいはウロプラキン1bをノックアウト(ゲノム編集技術による)した2倍体アフリカツメガエル(ネッタイツメガエル)の作成。今年度はこれら5つのテーマそれぞれについての研究進捗があった。具体的内容は次項に記す。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ウロプラキン3をはじめとする卵細胞膜マイクロドメインタンパク質の生理機能を卵形成・卵成熟・受精および初期発生の範囲で包括的に明らかにすることを目的としている。概要欄にてあげた①~⑤のテーマは、それぞれに直接(ラット抗体のターゲット探索、ウロプラキン3のノックアウト)あるいは間接(卵母細胞の表層変化とMAPK、卵形成・卵成熟とFAK)に本研究の進捗に資するものである。それぞれが上記の通り順調な進捗を示していることを受けて「おおむね順調に進展している。」と判断した。具体的な内容は次の通りである。①卵成熟反応の細胞学的指標である「動物極におけるホワートスポットの出現」に先立って観察することのできる卵表層変化(プレ・ホワイトスポットと名付けた)を新たに同定した。その出現および以降のホワイトスポットと同様にMAPK阻害剤U0126に対して感受性をもつことを見出した。②卵成熟反応完了時にMAPK阻害剤U0126処理を受けた卵母細胞において、同未処理卵母細胞の長期培養時に見られる表層の形態変化とカスパーゼ活性化のタイミングが早まることを見出した。③ヒト細胞FAKに対する特異抗体を用いて卵母細胞FAKの同定に成功した。卵母細胞FAKは卵母細胞ステージIの時点から発現しており、卵成熟反応初期にリン酸化を受けていることが示唆された。④免疫沈降法および質量分析法により、ラット抗体3種それぞれのターゲット分子を同定した。また同定分子のアミノ酸配列に基づいて作成したウサギ抗ペプチド抗体により1種のターゲットを再同定した。⑤TALEN法およびCRISPR/Cas9法を用いたゲノム編集によりウロプラキン3ノックアウトガエルを作成し、採卵可能な成体の生育に成功した。
上記①~⑤の研究成果をさらに充実(たとえばウロプラキン3ノックアウトガエルがつくる卵細胞の生理学的・生化学的解析の結果を得ること)させるとともに、精子側のタンパク質機能解析のほうで具体的な進捗・成果をあげることを 2016年度の目標とする。
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https://www.kyoto-su.ac.jp/faculty/professors/nls/sato-kenichi.html
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~k3884/LABHPJ/index.html