研究課題
平成29年度の研究計画に沿って、解糖系活性化の指標である乳酸とATPの組織内局在を質量分析イメージングにより検出し、神経板特異的な解糖系活性化の可視化を試みた。連携研究者による予備実験では、成体マウス組織内におけるモノヌクレオチドの検出に成功していたが、神経管閉鎖期である胎生8日目の胚では十分な解像度が得られないことがわかった。そこで、胎生8日目胚における乳酸とATPの量を酵素活性を利用した定量法で調べた。胚体抽出液を用いて定量解析したところ、検出限界以下と非常に微量であることがわかった。さらに、ATPの蛍光レポーター遺伝子であるQueenを神経板へとエレクトロポレーションにより導入し、組織内ATPの検出を試みた。蛍光レポーター遺伝子と共に導入したRFPの蛍光は検出され、遺伝子導入に問題は認められなかったが、Queenの蛍光を検出することはできなかった。これらの結果から、胎生8日目胚における乳酸やATPは極めて微量であり、既存の方法では検出が困難であることがわかった。今後、新しい検出系の構築が必要である。そこで研究計画を変更し、解糖系遺伝子の1つ、Ldhaの神経板特異的なノックアウトマウスを作製することとした。Ldhaは解糖系の最終段階であるピルビン酸から乳酸への変換を担っている。もし、Ldhaの欠失により神経管閉鎖不全が生じれば、Hif1a依存的なLdhaの発現誘導とその後の乳酸の産生誘導が神経管閉鎖に重要であることを強く支持する結果となる。
2: おおむね順調に進展している
Ldha floxマウスを購入し、Ldha floxを両アリルに持つマウス(Ldha flox/flox)を作製した。そして、神経板特異的なCreドライバーであるSox1-creマウスと交配し、Sox1-creとLdha floxそれぞれを片アリル持つマウスを作製した。現在、このマウスとLdha flox/floxマウスを交配させることで神経板特異的なLdhaノックアウトマウスを作製している。研究計画を生化学的なアプローチから遺伝学的なアプローチへと変更したことでマウスの繁殖に時間を要しているが、研究全体の進捗状況は概ね順調である。
当初の研究計画では、神経板における乳酸やATPの局在を可視化することにより神経板特異的な解糖系の活性化を証明する予定であった。しかし今後は、神経板特異的にLdhaを欠損させることで神経板特異的な解糖系の活性化が神経管閉鎖に必須であることを明らかにする。また、Ldhaの欠損が他の解糖系酵素の細胞内局在に影響を与え、局所的なATP産生が破綻することで神経上皮細胞の頂端面収縮が起こらなくなるという仮説が考えられる。そこで、他の解糖系酵素の局在を免疫組織学的な手法により調べる。
平成28から29年度にかけて、質量分析イメージングによる組織特異的な解糖系の活性化をATPと乳酸の検出により試みた。しかし、対象としている胎生8日目の胚では組織レベルでシグナルを同定できるほどの解像度が得られないことがわかった。そこで、研究計画を変更し、解糖系の最終段階を司るLdha遺伝子の神経板特異的ノックアウトマウスを作成することにした。Ldha floxマウスとSox1-creマウスを繁殖し、さらに両アリルを持ったマウスを作成するのに時間がかかったため、その後の解析に要する費用を次年度に持ち越す必要が生じた。
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