昨年度の結果から、胎生8日目胚における乳酸やATPは極めて微量であり、質量イメージングや蛍光レポーターを用いたイメージング、酵素反応を利用した検出法では検出が困難であることがわかった。そこで研究計画を変更し、解糖系遺伝子の1つで、解糖系の最終段階であるピルビン酸から乳酸への変換を担っているLdhaのノックアウトマウスを作製し、解析することとした。Ldha floxマウスを購入し、Sox1-creマウスと交配させることで神経板特異的なLdhaノックアウトマウスを作製した。胎生8日目から胎生14日目まで経時的に胚を回収し、肉眼観察により神経管の形成に異常が無いか調べた。しかし、予想に反して、Ldhaの欠失では神経管閉鎖不全は生じなかった。また、脳の形成異常に関しても、神経板特異的なLdhaノックアウトマウスでは顕著な異常は認められなかった。Ldhaに対するsiRNAを用いた遺伝子発現抑制実験では、胎生8日目の体節数が5対以下のマウス胚にsiRNAを導入した場合に神経管閉鎖に異常が認められた。これらの結果から、Sox1-creによるLdha遺伝子の欠失のタイミングが胎生8日目より遅いことが示唆された。そこで、定量PCRによる発現解析を行った結果、胎生8日目におけるLdhaの発現は わずか20%ほどの減少であることがわかった。このことから、比較的高い発現量を示すLdhaの場合、ノックアウトマウスにおける残存活性が高く、神経管形成に影響が見られなかった可能性が考えられる。また、creによるLdha遺伝子の欠失そのものが不完全であることも考えられた。
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