研究課題/領域番号 |
15K07089
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
六車 恵子 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 専門職研究員 (30209978)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小脳 / ヒト多能性幹細胞 / プルキンエ細胞 / 神経分化 / 三次元培養 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
多能性幹細胞を培養して様々な細胞に分化誘導する系は、発生生物学の研究において強力なツールとなりつつある。研究代表者はこれまでに、マウス胚性幹細胞(ES細胞)から小脳顆粒細胞や、小脳皮質唯一の出力であるプルキンエ細胞への効率的な分化誘導に成功している(Muguruma et al., 2010; Su and Muguruma et al., 2006)。さらにH24年度からの基盤C科研費による研究成果として、ヒトES細胞から、小脳を構成する複数種の細胞への分化にも成功している(Muguruma et al., 2015)。本課題では、三次元培養法を駆使して、ヒトES細胞、もしくはiPS細胞から立体的な小脳組織を形成させることにより、小脳の器官形成メカニズムを明らかにすることを目的とする。確立した手法をヒトiPS細胞にも展開することにより、発生過程の異常に起因する小脳形成不全や、脊髄小脳変性症などの神経変性疾患の病態解明に寄与することを目指す。 初年度のH27年度は、(1)ヒトES細胞から小脳神経細胞への分化誘導効率の最適化、(2)ヒトiPS細胞への適用、を行った。(1)については発生過程のより忠実な再現による具現化を目指し、培養過程でのシグナル因子の添加時期、種類、量の検討を詳細に行った。ES細胞とiPS細胞では、概ねの分化培養系は共通化することが可能であるが、詳細な部分では改良が必要となる。(1)での深掘り検討によって、(2)のiPS細胞への分化誘導技術の展開が可能となりつつある。iPS細胞由来の小脳神経上皮の形成、特異的マーカーの発現確認、前駆細胞の表面抗体による分離抽出、成熟培養をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者によって開発されたマウスES細胞からの小脳分化誘導系が、ヒトES細胞、iPS細胞にも応用可能であることを示すことが出来た。このことは、ほ乳類間で高度に保存されている小脳の初期発生過程を、試験管内でほぼ再現出来ている事を示している。本課題の主目的「構成論的アプローチによって発生原理を探る」ためのモデル系が構築されつつあると考えられる。本分化誘導系によって、ヒト由来細胞を用いたヒト小脳の組織形成原理、iPS細胞を用いた基礎研究から疾患研究への橋渡し、が期待できるため。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトES細胞で開発した分化誘導系が、iPS細胞へ適用できることを確認しつつある。次年度以降はヒト小脳の形成原理、小脳神経細胞の分化機構を解明をすすめる。また、遺伝子改変技術、小脳疾患由来iPS細胞を用いることにより、発生過程の異常を原因とする組織構築異常、細胞分化異常を試験管内で再現し、小脳疾患研究のモデルの開発・提供を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題は平成24年度からの科研費基盤C課題の延長にある。 初年度(平成27年度)は、培養方法の確立のために詳細な条件検討などに要する試薬等に多額の費用が必要であるとの予測により、予算を計上したが、前課題の平成26年最終年度に培養方法の大枠が開発できたため、本課題初年度では開発済みの培養系の改良・最適化に注力することができた。研究が順調に進捗しているため、次年度(平成28年度)は新規の培養技術、遺伝子改変技術、遺伝子解析などを通じて、当初目的の達成ならびに応用研究への展開を本格化させるため、予算を残した。
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次年度使用額の使用計画 |
本課題を遂行するための基礎となる培養方法は概ね開発ができた。次年度以降は、より高度で質の高い組織を作り上げる事を目的とするため、培養環境の改良、遺伝子改変、網羅的遺伝子解析等の費用に使用する予定である。
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