研究実績の概要 |
多能性幹細胞から様々な細胞を分化誘導する実験系は、発生生物学において強力な研究手段である。研究代表者はこれまでに、マウス胚性幹細胞(ES細胞)から小脳顆粒細胞やプルキンエ細胞への効率的な分化誘導に成功している(Muguruma et al. Nat Neurosci 2010, Su and Muguruma et al.dev Biol 2006)。平成24年度からの基盤C科研費による研究成果として、ヒトES細胞からの小脳分化誘導にも成功した(Muguruma et al Cell Rep 2015)。本研究課題では、3次元培養法を駆使して、ヒトES細胞・ヒトiPS細胞から立体的な小脳組織を形成することにより、小脳の器官形成メカニズムを明らかにすることを目的とした。またこれまでに確立した手法をヒトiPS細胞にも展開することにより、発生過程の異常に起因する小脳形成不全や脊髄小脳変性症(SCA)などの神経変性疾患の病態解明にも寄与することを目指した。本研究期間を通じて、ヒトES細胞から小脳神経細胞への分化誘導効率の最適化とヒトiPS細胞への適用を行った。その結果、SCA6患者iPS細胞由来の小脳神経細胞には脆弱性があることを見出し、この脆弱性を指標に薬剤評価を実施した。また、胎生期の発生異常を原因とする疾患iPS細胞からは小脳組織の形成不全が再現される結果が得られ、形成不全の修復の可能性を検討するため薬剤評価などを実施した。以上のことより、成熟後の小脳で生じる神経変性・脱落、ならびに胎生期の発生異常による組織構築不全など、異なるステージでの現象や病態を検出する系として、本分化誘導法が活用できる可能性を示すことができた。
|