研究課題/領域番号 |
15K07090
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
荒田 幸信 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 研究員 (40360482)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 1分子イメージング / 細胞極性 / PAR/aPKCシステム / 拡散解析 / アクトミオシン / パターン形成 |
研究実績の概要 |
細胞極性タンパク質の非対称局在は、ナノメートルスケールの分子の衝突を基礎にして、マイクロメートル(細胞)スケールで形成される。本研究の目的は、ナノスケールの現象とマイクロスケールの出力の間をつなぐ物理的・分子メカニズムを明らかにすることである。本年度は、細胞骨格が極性タンパク質の局在領域サイズの決定に関与している可能性を検討した。まず、受精卵サイズが大きくなるまたは小さくなるRNAi胚(それぞれimb-5、C27D9.1)で、アクチン繊維の挙動を観察した。これらのRNAi胚では、極性形成期の終わりにアクチン分布領域の境界が野生型と異なり、卵の極性軸上の中央位置から顕著にずれていた。タイムラプス観察から、このずれの原因は卵サイズの違いによって、卵サイズに対するアクチン繊維の収縮移動距離が相対的に変化した為と考えられた。しかし、このズレは維持期になると速やかに解消され、野生型胚と同じ極性軸中央位置に変化した。特に、サイズの大きい胚では、極性軸上の中央位置から余分に張り出した領域だけが、維持期に入るとともに細胞膜上から一斉に解離した。このことは、アクチンの分布領域サイズは、アクチンの自律的制御というよりその他の因子の位置情報の下流で制御されていることを示唆する。次に、この位置情報がチューブリン骨格系によって与えられる可能性を検討した。中心体から伸びる星状紡錘体は、卵の極性軸を二分するように極性軸両側に伸びていることから、局在領域サイズを決定するための位置情報になり得る。極性維持期の始めに、二光子顕微鏡を用いて片側の中心体を破壊し星状紡錘体の卵内での位置を変化させると、極性タンパク質の領域サイズが変化した。これらの結果は、極性タンパク質の局在領域サイズの決定には、アクチン骨格というよりもマイクロチューブル骨格が重要な働きをしていることを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極性ドメインサイズの決定機構は当初の予想に反し、H27年度の解析から極性タンパク質の動態より長い時間スケールで起こる細胞骨格制御システムによって制御される可能性が浮上した。さらにH28年度の結果から、マイクロチューブル骨格が位置情報を与える可能性が示された。確かに、これまでの報告で、マイクロチューブルを短くすると極性ドメインの境界が不規則に極性軸中央から逸脱すること現象が報告されている(Ai et al. 2011)。この報告は、極性ドメインサイズの決定機構を直接に明らかにしたものではないが、本研究課題での発見と無矛盾である。これまで申請者の結果と既存の報告を合わせて考えると、極性タンパク質の非対称局在が細胞スケールで正確なサイズのパターンを展開するためには、非対称性そのものを構築するPAR/aPKCシステムの分子反応と、マイクロチューブルによって構成される細胞スケールの構造体の相互作用によって成り立つと考えられる。本研究の目的を達成するには、マイクロチューブルが極性タンパク質のドメインサイズを決定する必要十分条件であるかを実験的に明らかにすることと、当初の計画にあるように前側PARの一つで、尾側に蓄積するPAR-1リン酸化酵素の基質となるPAR-3の動態を計測し、計測に基づいた数理モデル化を達成することである。これら二つの成果を合わせることにより、分子の非対称局在を構築する機構が、どのように細胞スケールでドメインサイズを形成できるのかを明らかにすることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
マイクロチューブルが極性タンパク質のドメインサイズを決定することの必要条件の検討のために、本課題で発見した形成期の終わりに起こるアクチンの細胞膜上からの一斉解離とそれに伴うドメインサイズの調節が、マイクロチューブルの伸長を阻害した時にも同様に起こるかを調べる。アクチン繊維の一斉解離が部分的にでも阻害されるのであれば必要条件を示す証拠となる。一方、十分条件の検討の為には多精子胚を形成するRNAi胚においてアクチン繊維及びPARタンパク質の局在を観察する。これまでに報告のある、中心体の数が異常になるRNAi胚において星状紡錘体の位置に合わせて極性タンパク質の局在領域が縮小する場合、十分条件を示す証拠となる。一方、PAR-3を含めた極性形成のための数理モデル化のためには、1分子イメージングを用いたPAR-3の動態計測を行う。特に、PAR-3の膜上の滞在時間と拡散係数の測定から、膜上の実効的な拡散距離を正確に算出する。実効拡散距離が、局在領域のサイズを規定するには短すぎる点を明確にすることにより、マイクロチューブルとPAR/aPKCシステムの機能の違いを明確化し、論文化へと進む。効率的な研究計画の遂行のため、マイクロチューブルとPAR/aPKCシステムの両者が、分子的にどのように直接相互作用しているかについては、本研究課題期間中には検証しない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
体調不良により、参加を検討していたEast Asia C. elegans meetingへの出席を取りやめたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
生化学試薬、分子生物学試薬等、カバーガラス・スライドグラス等、消耗品の購入に充てることとする。
|