研究課題/領域番号 |
15K07090
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
荒田 幸信 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 研究員 (40360482)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 1分子イメージング / 細胞極性 / PAR/aPKCシステム / パターン形成 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
細胞極性タンパク質の非対称局在は、ナノメートルスケールの分子の衝突を基礎にして、マイクロメートル(細胞)スケールで形成される。本研究の目的は、スケールの異なる現象の間をつなぐ物理的・分子メカニズムを明らかにすることである。これまでに、極性軸上の一方に局在するRINGドメインタンパク質であるPAR-2の動態計測により、PAR-2の非対称局在が細胞膜上への結合と解離速度の制御によって成立していることを明らかにした(Arata et al 2016)。本年度は、PAR-2と相対して局在するPDZドメインタンパク質PAR-3の動態計測を行った。PAR-3の動態もPAR-2と同じように、細胞膜からの解離速度の制御だけでなく、膜への結合速度も制御があることを見つけた。これまでのPARタンパク質の非対称局在のモデルでは、線虫胚の将来の尾側に局在するPAR-1キナーゼが将来の頭側に局在するPAR-3を細胞膜上でリン酸化し、膜からの解離を促進することにより非対称局在が維持されると説明している。確かに、PAR-3のリン酸化部位をアラニンに置換した変異体では解離速度が遅くなっていた。しかし、本研究で見つかった結合速度の非対称性はこのモデルでは説明できない。結合速度と解離速度の非対称性を同時に説明するためには、細胞膜上に存在するPAR-3の受容体が二種類存在することおよびそれらの空間分布が極性軸に対して非対称である可能性(仮説1)か、膜上でリン酸化されたPAR-3タンパク質が解離する速度も膜に再出現する速度もあらかじめ決まったリン酸化状態にしたがって決定している可能性(仮説2)が考えられる。後者の仮説は、細胞質で起こる脱リン酸化は膜細胞質間の交換反応よりも十分に遅いことを仮定する必要があるが、受容体は1種で受容体の非対称分布を仮定する必要もなくシンプルである。本年度は、この二つの可能性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
極性タンパク質の極性ドメインの大きさは細胞サイズに依存して変化する。この細胞サイズ依存性の分子機構を理解するために、1分子イメージングを用いたPAR/aPKCシステム構成因子の細胞内動態計測を行った。当初の複数の仮説に反して、細胞サイズが変化しても、PARタンパク質の細胞内動態には変化がなく、また細胞表層のアクチン繊維(細胞骨格系)の空間パターンにも変化を見つける事ができなかった。一方、二光子顕微鏡を用いて、微小管形成中心(MTOC)を破壊により力学的なバランスが崩れ、破壊していないもう一方のMTOCが細胞中心に移動するに連れ、PAR-2の局在ドメインが縮小することを見つけた。この結果から、細胞サイズ依存性は、タンパク質の動態ではなく、より長い時間・空間スケールを持つ細胞骨格制御システムによって制御される可能性が高い。確かに、これまでの報告で、マイクロチューブルを短くすると極性ドメインの境界が不規則に極性軸中央から逸脱すること現象が報告されている(Ai et al. 2011)。極性タンパク質の非対称局在が細胞スケールで正確なサイズのパターンを展開するためには、非対称性そのものを構築する極性分子の細胞内動態と、マイクロチューブルによって構成される細胞スケールの構造体の相互作用を考える必要がある。本研究では、これまでに構築した1分子イメージングを用いた極性タンパク質(PAR-3)の動態計測とモデル化に集中し、極性維持機構を極性タンパク質動態から理解することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
1分子イメージングを用いて、極性軸上に相対する細胞表層でのPAR-3の膜からの解離速度および結合速度を計測する。これまでに、蛍光分子を発現しない線虫卵とGFP融合PAR-2およびPAR-3を比較すると、約10%が細胞内のbackground蛍光分子であった。極性分子の解離速度および結合速度の計測のために、このbackground蛍光分子を、継続して膜に滞在する時間、蛍光強度を指標により除くとともに、このbackground蛍光分子の動態を計測して、極性分子動態に混ざり込む効果を排除し、正確な極性分子動態を計測する。また、PAR-3にもこれまでに計測したPAR-2と同様に、数分子を含む重合体が存在する事を見つけた。輝点強度ヒストグラムを用いて、この重合体の分布が極性軸上で変化している可能性を検討する。さらに、重合度と解離速度および結合速度の関係を調べるために、重合度を指標に輝点動態時系列データを分けたのち、それぞれの解離速度および結合速度を計測する。さらに、リン酸化によるPAR-3分子の動態制御に対する重合度変化の影響を調べるために、リン酸化部位に点変異を導入したPAR-3分子に対しても同様に重合度を指標に輝点動態時系列データを分け、解離速度および結合速度を決定する。以上の計測により、PAR-3が非対称局在を維持する分子動態バランスを明らかにする。これらの計測結果を基礎に、細胞膜と細胞質でのPAR-3動態を記述できる数理モデルを構築し、研究実績の概要に記載した二つの仮説のうちどちらが正しいかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度、前々年度に消耗品費用として計上していた経費が、所属研究室ですでに購入していた試薬によってまかなえたこと、および前々年度に計上していた国際学会への出席が体調不良により不参加となったにより、差額が生じた。分子生物学試薬34万円。延長期間中に出席する国際学会、および国内学会の旅費として旅費30万円を計上する。実習生として研究を補助している学生(東海大学大学院工学部修士1年池田優作君)への人件費・謝金25万円を使用する。
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