研究課題/領域番号 |
15K07096
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
日原 由香子 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60323375)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レドックス制御 / 転写因子 / チオレドキシン / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
当該年度は、チオレドキシンとの相互作用スクリーニングにより単離されたSynechocystis sp. PCC 6803の5種の転写因子のうち、GntR型転写因子Sll1961についての生化学解析を進めた。Sll1961に関しては、これまでにin vitroにおいてC229とC307がレドックスアクティブであること、チオレドキシンとの相互作用によりこれらの間の分子内ジスルフィド結合が還元されることを見出している。Sll1961は非還元SDS-PAGEを行うと常に単量体として検出されるが、GntR型転写因子は二量体構造を取ることが一般的であるため、これまでの実験系では、チオレドキシンとの相互作用に伴う単量体二量体変換等を見落としている可能性があると考え、HPLC解析により多量体状態の検討を行った。その結果、Sll1961はレドックス状態によらず、またシステイン残基の置換の有無によらず、二量体として存在していることが明らかになった。一方、CDスペクトル測定とその結果に基づくモデル構築により、C末側に存在する分子内ジスルフィド結合にチオレドキシンが作用することにより、N末側のDNA結合領域に構造変化がもたらされる可能性が示唆された。今後、Sll1961が標的とする遺伝子を同定した上で、レドックス状態がDNA結合活性に影響を与えるかどうか検証する必要がある。また、Sll1961とチオレドキシンの相互作用の生理的意義を明らかにするためには、in vivoにおけるレドックス変化の検出が必須であるが、チオール基修飾後にイムノブロット検出する方法では、Sll1961システイン残基のレドックス変化は依然として検出できていない。今後、レドックスプロテオミクスの手法を用いる等、別の手法を試みる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sll1961に関して、in vitroにおけるチオレドキシンとの相互作用の詳細解析を行い、Scientific Reports に論文が受理されたことで、一応の成果を挙げたものと考えている。しかし、チオレドキシンとの相互作用の生理的意義を明らかにするために、今後 ①Sll1961標的遺伝子を同定する、②in vivoでのレドックス状態変化を検出する、の2つの課題を達成する必要がある。①に関しては、genomic SELEX法により、実際にSll1961が結合して働くゲノム領域の同定を試みている。②に関しては、強い酸化還元ストレス条件下で培養した細胞のレドックス状態を固定後に、チオール基を修飾し、Sll1961抗体を用いて、その修飾状態を検出する実験を、様々に条件を変えて試行したが、現在までに明確にレドックス変化を示す結果が得られていない。非特異的バンドが多く検出され、結果の評価が困難であることから、イムノブロット解析では今後大きな改善は見られないのではないかと考える。細胞内タンパク質を修飾した後にMS解析に供するレドックスプロテオミクス手法を用いることにより、ブレイクスルーを達成できないかと考え、現在実験計画を立案中である。
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今後の研究の推進方策 |
上述の①に関しては、まずgenomic SELEX法により、Sll1961の結合配列を同定する。その上で、その配列に対するSll1961の結合活性が、レドックス状態変化により影響を受けるかどうか、DNAシフトアッセイによりin vitroで、クロマチン免疫沈降によりin vivoで、それぞれ評価を行いたい。また、同定された標的遺伝子がどのような環境条件下で発現変動を示すかを調べ、その条件下でSll1961とチオレドキシンとの相互作用の検出を試みたい。②に関しては、LC-MSを用いたレドックスプロテオミクス解析を検討中である。光条件や栄養条件の変化に伴い、レドックス状態変化を起こすタンパク質の中にSll1961が含まれないかをまず評価する。①で同定したSll1961標的遺伝子が発現変動する環境条件も、試行すべき有力な条件である。また、レドックス変化を示す他の転写因子にも着目することで、これまで行ってきたチオレドキシンと相互作用する転写因子のスクリーニングとは別の角度から、レドックス応答転写因子に関する知見を得ることができるのではないかと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
転写因子とチオレドキシンの相互作用の生理的意義を明らかにするためには、in vivoにおけるレドックス変化の検出が必須であり、これまでに、チオール基修飾後にイムノブロット検出する方法を条件検討してきたが、未だチオレドキシン標的として同定した転写因子のシステイン残基のレドックス変化を検出できていない。そこで新たにLC-MSを用いたレドックスプロテオミクス解析により、光条件や栄養条件が変化した際の転写因子のレドックス変化を網羅的に検出するアプローチを計画した。当初予定された年度中には実施に至らなかったため、次年度使用額が生じた。
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