研究課題
研究代表者はこれまでに、Synechocystis sp. PCC 6803ではタンパク質合成の翻訳伸長反応が酸化ストレスに感受性が高いことを明らかにしている。H27年度は、翻訳伸長因子EF-Tuに的を絞って光合成の強光応答との関係を解析した。EF-Tuの組換えタンパク質に関して、単独システイン残基であるCys82のレドックス状態を解析したところ、GTP結合型およびヌクレオチドフリー型ではCys82がH2O2によって酸化され、EF-Tuは酸化型の多量体および単量体を形成するが、GDP結合型では酸化されにくいことがわかった。Cys82をセリンに置換すると、どのEF-Tu組換え体でも翻訳活性がH2O2に対して耐性を示し、酸化型多量体の形成は見られなくなった。したがって、Cys82の酸化が失活および多量体形成の原因となっていることがわかった。質量分析や化学修飾解析から、酸化型EF-TuはCys82を介した分子間ジスルフィド結合やスルフェン酸を形成していることがわかった。ゲルろ過クロマトグラフィーで分子形態を解析すると、ヌクレオチドフリー型EF-Tuは還元状態で2量体、酸化状態で2量体や30分子以上からなる巨大な複合体を形成することがわかった。この巨大複合体を原子間力顕微鏡AFMで観察すると、直径20 nm程度の球状物質であり、そこに還元剤DTTを添加すると速やかに多数の分子に解離していくことがわかった。細胞懸濁液に強光を照射して、EF-Tuのレドックス状態をウェスタン解析したところ、時間とともにEF-Tuが単量体から多量体へと変化することがわかった。チオレドキシン還元酵素FTRの破壊株では、多量体への変化が顕著に促進することがわかった。したがって、強光下ではEF-Tuが酸化され多量体を形成すること、EF-Tuは光合成電子伝達に由来する還元力によって還元されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
EF-Tuの研究をまとめ上げるのに多くの時間がかかったので、光合成の強光順化の研究が当初の予定よりも多少遅れている。しかし、EF-Tuの仕事を生化学分野のトップジャーナルであるJournal of Biological Chemistryに発表できたことは大きな成果である。またH27年度は、共著論文を含め9報の論文を発表できた。
[酸化ストレスと強光順化の関係] 異なる光強度の下で生育させたシアノバクテリアに強光を照射し、発生する活性酸素の量を測定する。一重項酸素に関しては、近年開発されたヒスチジン・トラップ法を用い、過酸化水素やスーパーオキサイドに関しては、DABやNBTを用いた染色法を工夫して測定する。これにより、活性酸素の発生量と強光順化の関係を明らかにする。また、活性酸素消去系酵素やFlavodiiron proteinsの発現量、トコフェロールやカロテノイドなどの抗酸化物質の存在量を調べる。[還元力供給と強光順化の関係] 光化学系から生じる還元力の一部は、チオレドキシンなどの酸化還元因子を介して標的タンパク質を制御している。これまでにEF-GやEF-Tuは、チオレドキシンにより再還元・再活性化されることがわかっている。強光順化にともなって還元力供給経路が促進され、タンパク質合成が活性化されている可能性がある。そこで、強光順化株におけるチオレドキシンの発現量やレドックス状態を調べ、還元力供給と強光順化の関係を明らかにする。[NPQと強光順化の関係] 光合成生物は、吸収した光エネルギーの一部を熱として放散したり、光化学系のステート状態を変化させたりして、光環境に適応している。これらは非光化学的消光(NPQ)として観察されるが、本研究では強光順化と熱放散、ステート遷移の関係を明らかにする。これまでに、熱放散は光化学系IIの修復を保護することが明らかになっており、強光順化によってNPQが増大することが予想される。
論文別刷が3月納入に間に合わなかったため、次年度にその経費を繰り越すことにした。
論文別刷経費の一部とする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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