研究課題/領域番号 |
15K07097
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
西山 佳孝 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (30281588)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境 / ストレス / 蛋白質 / 遺伝子 / 光合成 |
研究実績の概要 |
(1) 植物葉緑体翻訳因子の酸化傷害と強光応答:シロイヌナズナ葉緑体局在性の翻訳伸長因子cpEF-GおよびcpEF-Tuに関して、C末端にHisタグを融合した組換えタンパク質を調製した。これらを様々な濃度の過酸化水素で処理した後、システイン残基のレドックス状態と翻訳活性をin vivoで解析した。その結果、cpEF-Gは中性領域では酸化耐性を示したが、アルカリ性領域ではシステイン残基の酸化と活性の低下が見られた。一方、cpEF-Tuは中性領域でもシステイン残基が容易に酸化され翻訳活性が低下した。成熟型cpEF-Tuの2つのシステイン残基のうちCys149が酸化されてスルフェン酸を形成することがわかった。次に野生型植物体のリーフディスクに強光照射し、細胞抽出液中のcpEF-Tuのシステイン残基のin vivoレドックス状態をモニターした。その結果、強光照射に伴って酸化型cpEF-Tuの割合が増大することが観察された。 (2) 光化学系IIの強光順化におけるカロテノイドの役割:カロテノイドの一種であるゼアキサンチンとエキネノンを欠損したシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の変異株及び野生株を用いて、光合成の強光順化の様子と強光順化におけるカロテノイドの役割を解析した。野生株では強光下で生育させることによって、光化学系IIの光阻害が緩和した。この結果から、強光順化によって光化学系IIの強光耐性が増大することがわかった。しかし、クロラムフェニコール存在下における光化学系IIの光損傷は強光順化の影響を受けなかったことから、強光順化によって光化学系II の修復が促進することがわかった。一方、変異株は強光下で生育させても、光化学系IIの強光耐性はほとんど影響を受けなかった。したがって、これらのカロテノイドは光化学系IIの強光順化に必須であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度にシアノバクテリアEF-Tuの研究をまとめ、論文として発表することができた。本年度は植物葉緑体cpEF-TuおよびcpEF-Gの研究が概ね予定通り進行した。また、強光順化に関する研究に本格的に着手でき、カロテノイドとの関係を見いだすことができた。このように本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 植物葉緑体翻訳因子の酸化傷害と強光応答:本年度は葉緑体cpEF-Tuのin vitroおよびin vivo解析が順調に進んだが、次年度はcpEF-Gについてもin vivo解析、すなわち強光下におけるレドックス状態の変化を解析する必要がある。また、これら葉緑体翻訳伸長因子において酸化標的となるシステイン残基を特定する必要がある。さらに、葉緑体翻訳伸長因子のレドックス状態とタンパク質合成活性や光合成活性との関連を調べる予定である。また、野生型の葉緑体翻訳伸長因子や、酸化標的となるシステイン残基を改変した葉緑体翻訳伸長因子を過剰発現させた形質転換植物を作製し、強光下における葉緑体内タンパク質合成や光合成の強光耐性を解析する予定である。 (2) 光化学系IIの強光順化におけるカロテノイドの役割:本年度の研究から、カロテノイドがシアノバクテリアの強光順化に重要な役割を担っていることが示唆された。次年度は、強光順化で存在量が増えるカロテノイドを特定する。さらに、特定したカロテノイドの生合成に関与する遺伝子を過剰発現させ、カロテノイドを高蓄積させた変異株を作製し、光化学系IIの強光耐性に対する影響を調べる必要がある。また、一重項酸素など活性酸素の発生量との関係も調べる必要がある。 (3) NPQと強光順化の関係:光合成生物は、吸収した光エネルギーの一部を熱として放散したり、光化学系のステート状態を変化させたりして、光環境に適応している。これらは非光化学的消光(NPQ)として観察されるが、本研究では強光順化と熱放散、ステート遷移の関係を明らかにする。これまでに、熱放散は光化学系IIの修復を保護することが明らかになっており、強光順化によってNPQが増大することが予想される。さらに、このNPQ増加と課題(2)のカロテノイド増大との関係を明らかにする必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物葉緑体翻訳因子の酸化傷害と強光応答に関する課題の中で、翻訳因子cpEF-Gの解析が達成できなかったため、この解析に必要な経費を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
植物葉緑体翻訳因子cpEF-Gのin vivoレドックス状態の解析に必要な経費として計上する。
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