研究課題/領域番号 |
15K07099
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野亦 次郎 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (40583216)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ニトロゲナーゼ / 酸素感受性 / 異種発現 |
研究実績の概要 |
チオレドキシン(Trx)は生物界に広く分布し、様々な代謝系を触媒する酵素(蛋白質)の活性を調節する重要な蛋白質である。最近、私達は、窒素固定性ラン藻、Anabaena sp.PCC7120(A.7120)において、Trxが窒素固定酵素ニトロゲナーゼと相互作用するという興味深い結果を得た(J.Biochem. 2015)。ニトロゲナーゼは分子状窒素をアンモニアに還元する複雑な金属酵素であり、この地球上における全窒素固定量の50%を占めるなど、窒素動態において極めて重要な酵素である。ニトロゲナーゼは還元コンポーネント(NifHホモ二量体)と触媒コンポーネント(NifD-NifKヘテロ四量体)から構成されるが、そのいずれも『金属中心』を保持しているため、分子状酸素に触れると数分で不可逆的に失活する。本研究では、ニトロゲナーゼについて、嫌気条件下での生化学的解析の研究基盤の構築およびTrxによる活性制御機構の解明を試みてきた。申請者はこれまでに、紅色細菌を用いた発現系と嫌気チャンバーを利用して、金属中心の形成されたNifH蛋白質を得ることに成功している。一方、NifD-NifK蛋白質については発現が認められず、他の窒素固定性ラン藻、Leptolyngbya boryana (L.bory)を用いたNifD-NifK蛋白質の発現系の構築を行ったが、精製蛋白質を得ることはできなかった。そこで、L.bory のNifD-NifK蛋白質の精製を試みている。L.boryのNifD、NifKはA7120のNifD、NifKとそれぞれ76.7、72.2 %の相同性があることから、A.7120のNifD-NifK蛋白を代替できることが期待される。現在、L.boryに由来するNifD-NifK蛋白質の発現株を作製している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において、生化学実験の基盤として、A.7120に由来するニトロゲナーゼの発現精製系の構築が不可欠である。これまでに、様々な生物種を用いてA.7120に由来するニトロゲナーゼの構成蛋白質NifHおよびNifD-NifK蛋白質の活性型発現を試みてきた。NifH蛋白質については、窒素固定性の紅色細菌を利用した発現系を用いることで、金属中心の形成されたNifH蛋白質を得ることに成功した。一方、NifD-NifK蛋白質は、紅色細菌においても窒素固定性ラン藻L.boryにおいても発現が困難であった。NifHと比較し、NifD-NifKは金属中心の生合成系など活性化システムが複雑であり、また生物種によっても活性化システムの構成遺伝子が異なると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)A7120のNifD-NifK蛋白質と高い相同性を示すL.boryのNifD-NifK蛋白質をL.boryにおいて大量発現する系の構築を目指す。L.boryは窒素欠乏かつ嫌気条件下において全細胞でニトロゲナーゼの発現が誘導されることが知られており、生化学的解析に充分な量のニトロゲナーゼ蛋白質を得られることが期待される。また、A7120とは異なり異化細胞を形成しないため、細胞の破砕が比較的容易であるという利点が有る。現在、L.bory組み換え株の単離を行っている。 (2) A.7120のTrxM1とNADPH-Trx還元酵素の発現・精製系はすでに構築済みである。NifHおよびNifD-NifK蛋白質の発現系が完成した後に、TrxM1によってニトロゲナーゼ各コンポーネントの酵素活性が、実際に酸化還元制御されるのか、検討を行っていく。
|