研究課題
植物の表皮に無数に存在する気孔は、青色光に応答して開口し、植物と大気間のガス交換を促進して光合成を支える重要な役割をもつ。青色光受容体フォトトロピンは、気孔孔辺細胞においてシグナル伝達を誘導し、細胞膜H+-ATPaseを介したカリウムの能動輸送を駆動して気孔を開口させる。この応答には、H+-ATPaseとカリウムチャネルの両方の活性化が必要であるが、青色光がどのようにしてこれらのイオン輸送体を活性化するのか、その分子メカニズムは完全には解明されていない。申請者はこれまでに、フォトトロピンの相互作用因子として同定した二つのプロテインキナーゼ(キナーゼAとキナーゼB)が気孔開口を仲介することを見出した。本研究では、これらのプロテインキナーゼが気孔開口に必要なイオン輸送体の活性化にどのように関与するのか明確にし、気孔開口シグナル伝達をより分子レベルで理解することを目的とする。本年度は、特にキナーゼAについて遺伝学を用いた機能解析を進め、キナーゼAが光条件下の気孔開口を正に調節する新たなシグナル伝達因子であることを証明した。また、キナーゼAは確かに植物細胞内でフォトトロピンと相互作用することを明らかにした。さらに、単離孔辺細胞を用いた生理・生化学的解析により、キナーゼAがH+-ATPaseの活性化とは別の経路で、青色光下でカリウムチャネルを活性化するシグナル伝達を仲介することを見出した。これらの結果から、気孔開口に貢献する新たなシグナル伝達経路の存在を明らかにし、キナーゼAの気孔開口メカニズムにおける機能をある程度明らかにすることができた。キナーゼBについては、主に薬理学的な解析を進め、キナーゼBの阻害剤が気孔開口を抑制すること、H+-ATPaseのリン酸化と活性化を抑制することを見出した。キナーゼBはキナーゼAとは異なる作用点において気孔開口を仲介すると予想される結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
本研究で機能解析の対象とする二つのプロテインキナーゼAとBに関して、キナーゼAについては目的の研究を終え、学術雑誌への論文投稿を進めている段階まで来ている。従って、当初の計画通りに進んでいると判断した。
キナーゼAに関しては、2016年度の早い段階で論文採択を目指す。キナーゼBについては、2016年度は分子遺伝学的な解析を進め、気孔開口の正の調節因子である可能性を検証する。前年度からキナーゼBの発現抑制株と過剰発現株の作製を進めているため、系統が確立ししだい詳細な表現型の解析を進める。その際、青色光に依存した気孔開口を多角的に調べるため、単離表皮を用いた気孔開度測定だけでなく気孔コンダクタンスや葉温測定も行い、生葉の応答に着目した解析を進める。また、単離孔辺細胞を用いた生理・生化学的解析により、キナーゼB発現抑制株と過剰発現株の孔辺細胞のH+-ATPaseの応答を調べ、薬理学実験と対応する結果が得られるのか明らかにする。これらの実験により、H+-ATPaseの活性化へのCK2の関与を明確にし、CK2がフォトトロピンの下流、かつ細胞膜H+-ATPaseの上流で機能し、気孔開口を仲介する可能性を検証する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
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