研究課題/領域番号 |
15K07106
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
奈良 久美 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (30322663)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水輸送 / シロイヌナズナ / 液胞 / 塩ストレス / アクアポリン / フィトクロムA / 概日時計 / MRI |
研究実績の概要 |
植物体における水などの輸送は光、乾燥や無機養分の枯渇などのストレス、概日時計をはじめとした様々な外的・内的因子によって調節されている。本研究の目的は、光や時計によるアクアポリンや根の水透過性の調節を軸として、植物体における物質輸送、及び植物の成長やストレスへの応答の仕組みを調べることである。 植物細胞の大部分を占めている液胞は、様々な物質の貯蔵、分解、吸水による細胞成長、細胞のホメオスタシスの維持等を担う細胞小器官である。この液胞の機能は、液胞膜にある輸送体に支えられている。中でも、水分子や非荷電の低分子を選択的に透過させる液胞膜アクアポリンTIPは、細胞の吸水成長やストレス下での代謝の最適化に重要な役割を果たしていると考えられている。これまで幾つかのTIPの成長や塩ストレス耐性への役割を調べる研究が行われてきたが、TIPには複数の分子種が存在するため、個々の分子種の機能についてはまだ不明な点が多い。特に、シロイヌナズナの根で強く発現しているTIP2;2とTIP2;3に関しては、植物の成長やストレス応答に対する役割についてほとんど調べられていなかった。そこでTIP2;2及びTIP2;3の成長やストレス応答への役割を探るために、これらを欠損する変異体(以下、tip2;2及びtip2;3)を用いて、成長解析を行った。その結果、糖や窒素を含まない条件でtip2;2の根や胚軸が野生型よりも長くなることや、tip2;2が野生型よりも塩ストレスを受けにくいことが示された。tip2;3にはこのような表現型がみられなかったことから、TIP2;2とTIP2;3は成長やストレス応答に対して異なる役割をもつと考えている。 さらに、原形質膜アクアポリン遺伝子の発現やリン酸化の調節の研究から、光による水輸送調節と形態形成を関連付ける結果も得られている。今後も、成長や形態形成に伴う水などの輸送が環境によって調節される仕組みについて検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度には、1)シロイヌナズナ用MRIプローブの作成等、2)elf3変異体を用いたアクアポリン遺伝子の発現解析と気孔コンダクタンスの測定等、3)液胞膜アクアポリン遺伝子のノックアウト系統のストレス応答の解析、4)原形質膜アクアポリンPIP2;1遺伝子の光による発現調節の解析等を行った。 1)に関しては、シロイヌナズナのように茎の細い植物のMRIを取得するために、コイル径を小さくした新しいプローブを作製した。このプローブを用い、フローファントムを用いた流速測定を行ったところ、前年度よりもS/N比がかなり向上した。今後は、シロイヌナズナよりも茎の太いカイワレダイコン等で流速測定の予備実験を行った後、シロイヌナズナを用いた計測を行う予定である。 2)に関して、野生型とelf3変異体の主要な原形質膜アクアポリン遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって調べ、elf3変異体において概日変動がみられなくなる遺伝子があることがわかった。また、これら2つの系統のロゼット葉では水蒸気に対する気孔コンダクタンスが異なることも示された。今後は、PIP2sのリン酸化に関する追試を実施する予定である。 3)に関しては、計画通りに実験が進行している。tip2;2変異体が塩ストレスの影響を受けにくくなることが示されたのに加え、tip2;2 tip2;3二重変異体の作製と選抜が完了し、成長解析を開始した段階である。また、リアルタイムPCRによるTIP2sの遺伝子発現解析にも着手した。 4)に関しては、遠赤色光によりPIP2;1遺伝子のプロモーター活性が高まる組織を特定するとともに、光照射に伴う形態形成についても赤外線カメラを用いて解析した。その結果、根の水輸送が活発になることに関連しそうな光による迅速な形態の変化を捉えることに成功した。今後は光受容体フィトクロムAの変異体を用い、さらに詳細な観察をする予定である。以上のように、本課題の各テーマは概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
MRIによるシロイヌナズナの流速測定を実現するために、H28年度に作製したプローブを用いて、H29年度も引き続き条件検討を行う。H28 年度のプローブ作製は筑波大の連携研究者及び研究協力者が実施したが、シロイヌナズナの計測は行わなかったため、H28 年度に予定していた植物栽培のための研究協力者(筑波大)の雇用、研究協力者(奈良女子大)の筑波大への派遣等は行わなかった。H29年度以降のシロイヌナズナのMRI実験の際には、植物の栽培条件を厳密に管理するために、これらの研究協力者の雇用と派遣を計画している。 一方で、H28年度には、アクアポリン遺伝子のリアルタイムPCR解析、液胞膜アクアポリンのノックアウト系統のストレス応答への解析等を推進したため、試薬等の消耗品費の使用が予定額を上回った。また、実験が滞らないよう、H27年度中に故障した高圧蒸気滅菌器をH28年度に購入した。以上の理由で、当初の計画と使用費目が異なっているが、用途が変更した研究費は事前申請が必要な額に達しておらず、研究内容にも大きな変更はない。 H29年度以降は、新たにシロイヌナズナ用に作成したMRIプローブの条件検討が済み次第、野生型とelf3変異体のMRIによる流速測定を試みる。液胞膜アクアポリンTIP2;2、TIP2;3の成長やストレス応答への役割に関しては、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析を進めるとともに、H28年度に選抜したtip2;2 tip2;3二重変異体の表現型の解析を進める。さらにフィトクロムAによるアクアポリン発現と水輸送の調節については、遠赤色光による迅速な水輸送の調節と関連する地上部の形態変化をより詳細に捉えるため、これまでよりも解像度の高い赤外線カメラを用いた観察を行うこととする。そのために、H29年度中に赤外線カメラを購入し、遠赤色光照射に伴うシロイヌナズナの実生の形態の変化を経時的に追跡する。以上のように、多方面から研究を推進する方針である。
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