植物体における水や無機養分の輸送は光や概日時計をはじめとした様々な外的・内的な因子によって調節されている。さらに、乾燥や無機養分の枯渇などのストレスにも影響される。植物体における物質輸送、成長調節やストレスへの応答の仕組みを調べるため、H30年度は、水の輸送を担うタンパク質であるアクアポリンの機能に加えて、水や無機養分の輸送に重要な構造である根毛の形成機構に着目した研究を展開した。 根毛は根の表皮細胞の一部が突出して形成される構造であり、根毛の形成や伸長は光や無機養分の欠乏などの環境要因によって調節される。本研究では光による過剰な根毛形成の表現型を示すシロイヌナズナの突然変異体を用いて、環境による根毛形成の促進に、転写後の調節の一つであるpre-mRNAスプライシングが関わっていることを世界で始めて見出した。この成果は植物が環境に応じて根毛を伸ばす仕組みを解明するための新たな一歩である。 根毛伸長も含め、植物体の成長は水の吸収・輸送の効率によって大きく影響され、高塩濃度の培地では成長が著しく阻害される。本研究ではシロイヌナズナの液胞膜型アクアポリンAtTIP2;2とAtTIP2;3が水チャネル活性をもつこと、これらの二重変異体が塩ストレス下でも成長を維持しやすいことも見出した。また、AtTIP2;2やAtTIP2;3、AtTIP2;1との間に水チャネル活性を変化させるような相互作用があるかも検討した。これらのアクアポリンの水以外の分子の透過性や、二重変異体が塩ストレスに強くなる理由については今後明らかにしていく必要がある。時計による水輸送調節に関しては、MRIによるシロイヌナズナの水の状態の計測や、根や胚軸の細胞のプロトプラストを用いた水透過性の測定を実施した。これらの実験系は、シロイヌナズナの水輸送の仕組みを総合的に調べる技術として活用できるだろう。
|