生殖器官の形成は生物種の存続に必須な重要イベントである。申請者は植物の生殖器官形成の分子メカニズムをあきらかにするため、モデル植物シロイニナズナを用いて分子遺伝学的研究を進めた。申請者らは小胞体からの小胞出芽に働くCOPII (Coat Protein II)形成因子の一つであるAtSEC31が花粉の発達に働くことを見出していたため、次いで別のCOPII構成因であるAtSec23についての研究を進めた。シロイヌナズナには同ホモログが7種(AtSEC23A~AtSEC23G)存在している。これらについて花粉の観察を行ったところ、AtSEC23A、AtSEC23Dの単独破壊株で花粉表層構造であるエキシンの網目が不完全になっている(粗くなっている)ことがわかった。また、AtSEC23A破壊株では花粉の発芽率が有意に低下していた。さらにこれらの二重破壊株(atsec23ad)を作製したところ、花粉が殆ど形成されないという表現型を示した。この二重破壊株について、透過型電子顕微鏡により花粉発達の詳細な観察を行い、四分子のステージ以降に花粉表層異常が観察されはじめることがわかった。また葯内に存在し、花粉に脂質・多糖を供給する機能を持つタペート細胞についても透過型電子顕微鏡による観察を行い、タペート細胞内の特殊なオルガネラであるタペトソーム(小胞体由来)とエライオプラスト(葉緑体由来)が異常形態を示すこと、崩壊(タペート細胞は最後に崩壊してpollen coat成分を放出する)が遅れていることが観察された。遺伝学的解析の結果atsec23ad変異の効果が胞子体型であったため、タペート細胞が花粉表現型の原因と考えられた。AtSEC23AとAtSEC23Dがタペート細胞からの花粉表層形成物質の輸送に冗長的に働いていることが推察され、花粉形成における小胞輸送機能の理解が深まった。
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