研究課題
植物ホルモンオーキシン(IAA)は、植物の発生、分化、環境応答など多くの現象に重要な役割を果たす。申請者らはトウモロコシ幼葉鞘の先端でのIAA生合成に注目し、重力や光屈曲との関係性を含め研究を進めてきた。特に最近、青色光受容とIAA合成が幼葉鞘先端部0-2 mmで行われることが分かってきた。このため、先端という極めて限られた領域内で青色光受容が直接IAA生合成とその輸送に影響を与える可能性がある。本課題では、青色光受容体Zmphot1と先端特異的に発現・分布するZmNPH3(Zmphot1と相互作用)、ZmPGP19(IAA輸送タンパク質)、および、ZmYUC2(IAA生合成鍵酵素)に注目し、組織・細胞内の分布、リン酸化状態、相互作用等の解析について、特にIAA生合成・輸送の制御までの流れについて詳細な検討を加えることを目的とした。当該年度は、(1)Zmphot1、ZmNPH3、ZmPGP19、ZmYUCsの組織・細胞レベルの分布解明、(2)青色光照射後のZmphot1を含む関連タンパク質因子のリン酸化についてのMS解析、(3)Zmphot1と相互作用するタンパク質の解析、(4)根の負の光応答と重力屈曲、を主な課題として進めた。その結果、(1)、(3)に関しては抗体の反応性などに問題があり続行中であるが、(2)の関連因子のリン酸化プロテオーム解析に関しては、本学分子物質化学専攻の協力のもと重要な成果を得ている(2016.3.20 植物生理学会)。特に弱青色光照射によるトウモロコシ幼葉鞘の一次正屈曲においてもZmphot1のリン酸化状態の変化が観察された点は、世界的にも新しい知見であり注目される。28年度、その再現性とともに、このリン酸化の屈曲現象への関与を明確にすることに取り組む。また、(4)に関しては、国際的な共同研究として根の光感受性重力屈曲と先端でのIAA生合成について研究が進展し、現在投稿論文の審査を待つ段階にある。
2: おおむね順調に進展している
上記研究概要で述べたように、Zmphot1や関連因子の幼葉鞘内の発現・分布に関しては、抗体の反応性に問題があり現在進行中であるが、イネを試料とした場合のプルダウンが可能になったため28年度には何らかの結果が得られると考える。一方、Zmphot1を中心とした関連タンパク質因子のリン酸化プロテオームに関しては当初の予定よりも大きく前進し、世界的にも新しい知見を得つつある。28年度はこの結果を受けて新しい段階に進むことができる。さらに、トウモロコシの根の光受容と重力屈曲に関し、国際共同研究としてドイツボン大学Baluska教授らとの研究が具体的に進展し、論文(審査中)として成果発表に至った点は幼葉鞘と根の光応答、IAA生合成の比較という新しい分野の開拓に進んでいることは本課題から新たに生じた視点として評価される。特に、ともに光の受容とIAA生合成との関連性がより明確になってきているため、28-29年度の研究の進展が期待できる。
本年度の成果のもと、計画全般を遂行する。特に、幼葉鞘の弱青色光照射によるZmphot1のリン酸化サイトが屈曲に関与することが明確になれば、次にその下流関連因子の特定、情報伝達経路の解明へと進むことが可能になる。抗体の使用が確認できればZmphot1と直接相互作用する因子の特定や組織、細胞内の分布、光照射前後での移動に関しても知見を得ることができる。さらに、28年度はZmphot1、ZmYUC1のmRNAの発現部位をin situ ハイブリダイゼーションで可視化することにも取り組む。これはIAA生合成と青色光受容の関連性を明らかにするという本課題の目標の一つであり、28年度中の早い時点で結果を得ることを目指す。27年度の成果として新たな課題となってきた根(根冠)での光受容と根端でのIAA生合成の制御についても、ドイツとの国際共同研究をさらに発展させる。根の光要求性重力屈曲にはこれまでフィトクロームの関与が想定されているものの100年来明確な解答が得られておらず、28年度に関与する光受容体の特定まで進める予定である。
最も大きな理由として、(1)リン酸化プロテオーム解析が本学分子物質化学専攻のグループとの共同研究として進むことになり関連消耗品等の支出が減ったこと、(2)投稿論文はドイツの共同研究者の協力で校閲費用がかからなかったためである。その他に関しては、ほぼ予定した予算執行ができた。
次年度の使用計画として、検討を加えてきていたトウモロコシの変異体作成の依頼の枠を拡大すること、当初予算計画にはなかったGC-MS装置(IAA定量解析)にかかわる消耗品等に一定の金額が必要になってきているため、予算配分を一部変更する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
Plant Prod. Sci.
巻: 19 ページ: 154-160
doi.org/10.1080/1343943X.2015.1128101
Plant Cell Physiol.
巻: 56 ページ: 1287-1296
doi:10.1093/pcp/pcv042
J Plant Res
巻: 128 ページ: 679-686
DOI 10.1007/s10265-015-0710-2