研究課題
植物ホルモンオーキシン(IAA)は、植物の発生、分化、環境応答など多くの現象に重要な役割を果たす。申請者らはトウモロコシ幼葉鞘の先端でのIAA生合成に注目し、重力や光屈曲との関係性を含め研究を進めてきた。特に最近、青色光受容とIAA合成が幼葉鞘先端部0-2mmで行われることが分かってきた。このため、先端という極めて限られた領域内で青色光受容が直接IAA生合成とその輸送に影響を与える可能性がある。本課題では、青色光受容体Zmphot1と先端特異的に発現・分布するZmNPH3、ZmPGP19、および、ZmYUC2に注目し、組織・細胞内の分布、リン酸化状態、相互作用等の解析について、特にIAA生合成・輸送の制限までの流れについて詳細な検討を加えることを目的とした。当核年度は、幼葉鞘の光屈曲の分子機構を明らかにする目的で、青色光照射後のZmphot1を含む関連タンパク質因子のリン酸化についてのMS解析を進めた。その結果、Zmphot1のリン酸化解析に関しては、弱青色光照射によるトウモロコシ幼葉鞘の一次正屈曲においてもZmphot1のリン酸化状態の変化が観察されたため、それらの部位に変異をいれたコンストラクトをシロイヌナズナに導入したT2ラインを作出し、屈性への影響を調べる段階にきている(2017.3.18 日本植物生理学会)。さらに根の光依存的な重力屈曲に関して、共同研究者のボン大学Baluska教授らとともに研究を進め結果の一部を論文として発表した(JXB, 2016)29年度は、Zmphot1のリン酸化が関わる生理的な役割を明確にするとともに、トウモロコシ幼葉鞘での細胞内分布や他の因子との相互作用への影響に関する実験を進める。根の重力屈曲に関しては、根冠スタとサイト内のデンプン粒の流動性が光の照射により変化することに注目した研究を進める。
2: おおむね順調に進展している
トウモロコシ幼葉鞘における青色光(弱光および強光)照射による光屈曲の分子レベルのい解明を目的として進めているが、特に本課題では弱光での屈曲に注目している。世界的に強光下でのいくつかの因子やそれらの関連が徐々に報告されてきてはいるが、光の受容部位やIAAの流れなどその詳細はほとんど不明といえる。本課題2年間で、青色光受容体phot1のリン酸化プロテオーム解析により弱光でもリン酸化される部位を数か所特定したこと、さらにこれらの部位に変異を加えたZmphot1遺伝子を導入したシロイヌナズナT2種子を得るところまで到達できたため、最終年度に少なくともZmphot1の弱い青色光による光屈曲へのリン酸化の関与に関して新たな知見が得られることが期待される。さらに、細胞内分布や他の因子との相互作用への関与についても明確になることが予想される。これらの結果は、29年度の早い時期に論文としてまとめる。また、根の光依存重力屈曲に関しても、根冠細胞中のデンプン粒の流動性が光(特に赤色光)照射に依存して変化する可能性が示されており、世界的にも極めて注目される研究に進展している。
29年度は、弱青色光照射によるリン酸化が確認されたトZmphot1のリン酸化部位に変異を入れたコンストラクトを導入したシロイヌナズナT2ラインの種子を用いて、まず弱光での光屈曲への影響を観察する。野生型に比べて明らかな変化が見られた場合、世界的にkももわめて貴重な結果であり極力早い段階で論文にまとめる。変化が少ない場合でも、屈曲度を数値化して比較することや、phot1の形態形成や葉緑体運動など様々な機能に対して、これらのリン酸化の有無が関与するかどうかについての観察も進め、弱光によるphot1のリン酸化の機能について明らかにする。さらに、すでにボンバートメントによる幼葉鞘細胞での一過的発現系が確立できているため、Zmphot1のリン酸化の有無による細胞内分布や他の因子との相互作用について比較が可能である。また、現在凍結切片を用いた免疫染色法、in situ 法を確立しつつあり、in vivoでのZmphot1の細胞内分布、関連因子との相互作用についても検討を加える。根の重力屈曲に関しては、根冠スタトサイト内のデンプン粒の流動性が光の照射により変化することに注目した研究を進める。デンプン粒の動態は、凍結切片(12-14 マイクロメーター)を用いたヨード反応によるデンプン粒の可視化、DAPI染色による核の位置の確認により可能になっている。
最も大きな理由として、当初予定していた海外での学会参加発表が研究結果がオープンにできない状態だったことから中止にしたことである。その他に関しては、ほぼ予定した予算執行ができた。
国際会議への参加、海外研究者との交流のため、および、論文等の作成関係の費用に充当する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
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