研究課題
植物ホルモンオーキシン(IAA)は、植物の発生、分化、環境応答など多くの現象に重要な役割を果たす。申請者らはトウモロコシ幼葉鞘の先端でのIAA生合成に注目し、重力や光屈曲、根の形成と発達に関連した研究を進めてきた。特に青色光受容とIAA合成が幼葉鞘先端部0-2mmで行われることが分かったため、先端という極めて限られた領域内で青色光受容が直接IAA生合成とその輸送に影響を与える可能性に注目した。また、根の光依存的な重力屈性や根の側根の分化と成長に関連した課題に関しても、トウモロコシおよびイネの根を対象に研究を進めた。29年度は、幼葉鞘の光屈曲の分子機構を明らかにする目的で、青色光照射後のZmphot1を含む関連タンパク質因子のリン酸化についてのMS解析を進め、弱青色光照射によるトウモロコシ幼葉鞘の一次正屈曲においてもZmphot1のリン酸化が不可欠である可能性をシロイヌナズナの形質転換体を用いることで明確にした(2018.3.28 日本植物生理学会)。さらに根の光依存的な重力屈曲に関して、共同研究者のボン大学Baluska教授らとともに研究を継続し、根冠スタトサイト内のデンプン粒の流動性が光の照射により変化することが観察され、共同研究者たとも相談し何らかの形での研究継続を考えている。またこの研究に関連して、イネの根の光依存重力屈性が冠根のみに見られることも明らかになった。側根の分化と成長にはIAAが大きく関与するが、以前我々が発見したイネの根特異的な遺伝子(RSOsPR10)発現にもMED25が関係したジャスモン酸、サリチル酸とのクロストークの可能性が示されたことからこの遺伝子の発現制御機構に関しても研究を展開した(2018, Plant Direct)。
1: 当初の計画以上に進展している
トウモロコシ幼葉鞘における青色光(主に弱光)照射による光屈曲の分子レベルのい解明を目的として進めている。世界的に強光下でのいくつかの因子やそれらの関連が徐々に報告されてきてはいるが、弱光で引き起こされる1次光屈性に関しては世界的にもほとんど研究が進んでいない。本課題3年間で、青色光受容体phot1のリン酸化プロテオーム解析により弱光でもリン酸化される部位を数か所特定し、これらの部位に変異を加えたZmphot1遺伝子を導入したシロイヌナズナT2種子を得ることで、Zmphot1の弱い青色光による光屈曲へのリン酸化の関与が明確にできた。論文の作成は継続中であるが、計画以上の成果が得られている。また、根の光依存重力屈曲に関しても、根冠細胞中のデンプン粒の流動性が光(特に赤色光)照射に依存して変化する可能性が示されており、世界的にも極めて注目される研究に進展している。さらに本研究に派生して側根形成にかかわるIAA, ジャスモン酸、サリチル酸のクロストークによる根特異的な遺伝子の発現制御に関して新たな転写因子(促進及び抑制)を特定し論文として発表できたことも大きな成果である。
29年度までの研究により弱青色光照射によるZmphot1の2か所のリン酸化部位が一次光性屈性に重要な働きを有することを明らかにしてきた。この成果は、世界的な成果であり論文の作成に取り組み投稿まで進んだが、追加実験を求められたため、本年2-3月に追加実験を行い、現在再投稿の準備を進めている。30年度の早い時期の投稿・受理を目指す。また、根の光依存的な重力屈曲に関する研究に関して、ボン大学Baluska教授らのグループに加え、帝京大学の朝比奈準教授、篠村教授らと研究継続についての相談を進めており、根冠スタトサイト内のデンプン粒の流動性が光の照射により変化することを明確にする課題として、新たな研究プロジェクトの立ち上げを予定している。
本課題に関連した研究成果の公表に関する一部の支出が遅れたため。3月中に正式受理、支払いも確定されたが、事務的な残務処理や終了後の研究内容の継承に関する他大学研究者との打ち合わせなどに使用を予定している。
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Plant Direct
巻: 3 ページ: 1-17
10.1002/pld3.49