研究課題/領域番号 |
15K07116
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
町田 千代子 中部大学, 応用生物学部, 教授 (70314060)
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研究分担者 |
高橋 広夫 千葉大学, 園芸学研究科, 准教授 (30454367)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 葉の発生分化 / gene body メチル化 / DNAメチル化 / クロマチン構造 / 核小体 / エピジェネティクス / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
植物細胞は、分化状態から容易に未分化状態(幹細胞的性質)になりうることが古くから知られている。細胞分化過程では、植物に特徴的なエピジェネティックな機構があると考えられるが、その分子メカニズムは、未だ明らかになっていない。葉は茎頂メリステムから分化する地上部の主要な器官であり、葉の初期分化過程は、器官分化の優れたモデルとなっている。特に、葉の表裏の極性の確立は扁平な形態的特徴をもつ葉の形成過程の鍵と成っている。我々は、表裏の極性確立において、シロイヌナズナAS1-AS2がARF3のプロモーター領域に直接結合し、転写抑制に関わること、ARF3のgene body DNAメチル化のレベルの維持に関わることを明らかにした。さらに、核小体局在因子やリボソーム形成に関わる因子、クロマチン構造に関わる因子などがAS1-AS2と共に、葉の向背軸分化に関わる事を明らかにした。本研究の目的は、AS1-AS2によるARF3の抑制機構をモデルとして、植物発生に特徴的なエピジェネティック制御機構を明らかにする事である。2015年度は、AS1-AS2が関わる葉の向背軸分化には①DNAメチル化が正常に機能していることが必要であること、②核小体のメジャーなタンパク質であるヌクレオリンの正常な機能が必要であり、ヌクレオリンは、ARF3遺伝子のgene body DNAメチル化のレベルの維持に関わること、③ I型トポイソメラーゼとクロマチン会合タンパク質CAF1の構成要素の正常な機能が必要であり、これらはARF3遺伝子の上流のトランスポゾンのDNAメチル化レベルの維持に関わることを明らかにした。以上の結果から、シロイヌナズナのAS1-AS2は、葉の向背軸分化においてARF3遺伝子領域のDNAメチル化の維持に関わり、ARF3遺伝子の向軸側の発現抑制のエピゲネティックな制御に重要な役割を果たしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)葉の表裏細胞分化におけるDNAメチル化の役割の解析 ARF3 遺伝子のexon 6 には、CG配列が6カ所あり、野生型では、ほぼ100%メチル化されている。as1変異体とas2変異体では、exon 6メチル化レベルが70%くらいに減少することを示した。そこで、DNAメチル化が、葉の表裏細胞分化に関わるかどうかを調べるために、メチル化阻害剤をas2変異体に加え、葉の表現型を調べた。その結果、葉の表側分化の強い欠損を示し、ARF3とARF4の転写蓄積レベルも上昇した。さらに、ARF3とARF4の変異を導入したところ、葉の表現型を抑圧した。このことは、DNAメチル化機構が正常に機能することが葉の表裏細胞分化において重要であることを示している。 (2)葉の表裏細胞分化に伴うARF3 のgene body DNAメチル化の役割の解析 as2変異体背景で葉の表側分化の強い欠損を誘導する変異体(top1α、fas2、 nuc1)について、ARF3 exon6のgene body DNAメチル化レベルを解析した。その結果、top1αとfas2変異体、top1を特異的に阻害するカンプトテシンを投与した時には、DNAメチル化レベルに変化はなかった.一方、nuc1変異体においては、exon6のgene body DNAメチル化レベルが、減少していることがわかった。NUC1は核小体に局在するメジャーなタンパク質であり、核小体の構造と機能に関わる因子である。このことは、核小体がgene body DNAメチル化に関わっていることを示唆している。 以上の結果から、シロイヌナズナのAS1-AS2は、葉の向背軸分化においてARF3遺伝子領域のDNAメチル化の維持に関わり、ARF3遺伝子の向軸側の発現抑制のエピゲネティックな制御に重要な役割を果たしていることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、AS1-AS2の直接の標的遺伝子がARF3であることを明らかにすると共に、as1変異またはas2変異の表現型を強く亢進して葉の表側分化の欠損を起こした棒状の葉を形成する変異体と低分子化合物を多数同定している(Machida et al., WIREs Dev Biol 2015)。さらに、表側分化不全による棒状の葉を形成する変異として、ヒストンアセチル化酵素、クロマチン会合因子(FAS2)、ヌクレオリン、RNAヘリカーゼ等を同定した(Matsumura et al., 投稿中)。また、阻害試薬としては、ハイドロキシウレアやカンプトテシン、エトポシドなどが同定された(Nakagawa et al., 投稿準備中)。そこでまず、fas2 as2との二重変異体とカンプトテシン処理植物体を用いて、発生初期の葉原基を含む茎頂部細胞のARF3遺伝子座のDNAのメチル化パターンを解析し、変化のある領域について明らかにする。また、最近、ヌクレオソームの間隔や移動のしやすさは、転写レベルと関連があり、DNAメチル化はヌクレオソームの配置に影響しているという報告がある。そこで、カンプトテシン処理植物体や棒状の葉を形成する変異体におけるARF3遺伝子座のヌクレオソームの配置の解析を行い、葉の分化過程におけるクロモソームの凝縮、及びその維持について明らかにする。 AS1はMybドメインを、AS2は植物に特異的なcystein rich repeat配列を含むAS2ドメインをもち、複合体を形成し転写抑制因子として機能する。AS1は核内にスペックル状に局在しAS2は核質全体に分散すると同時に、1個から数個のAS2ボディを形成する。AS2ボディにはAS1蛋白質が共局在する。AS1-AS2と相互作用する因子を同定し、AS1-AS2のエピジェネティックな機能における核小体の役割を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画で記述したDNAメチル化解析の予定が遅れたため、消耗品を繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
新たなDNAメチル化解析とヌクレオソームの配置の解析に使用する予定である。また、これらの実験を行う研究員の雇用にも一部使用する予定である。
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