研究実績の概要 |
植物細胞は、分化状態から容易に未分化状態になりうることが古くから知られている。細胞分化過程では、植物に特徴的なエピジェネティックな機構があると考えられるが、その分子メカニズムは、未だ明らかになっていない。葉は茎頂メリステムから分化する地上部の主要な器官であり優れた分化モデルとなっている。葉の向背軸(表裏)の極性の確立は扁平な形態的特徴をもつ葉の形成過程の鍵となっている。我々はすでに、向背軸の極性確立において、シロイヌナズナ向軸側因子AS1-AS2が背軸側因子ARF3遺伝子を直接転写抑制することが重要であり、さらに、ARF3のコード領域のDNAメチル化のレベルの維持にも関わることを明らかにした。本研究の目的は、AS1-AS2によるARF3の抑制機構をモデルとして、植物発生に特徴的なエピジェネティック制御機構を明らかにする事である。2017年度は、(1) AS2とともに核小体タンパク質(RH10 RNAヘリカーゼと NUC1ヌクレオリン)が、ETTのexon6内のCpG部位のメチル化の維持に関わること、(2) AS2タンパク質のAS2ドメイン内のCxxCジンクフィンガードメイン(C-motif, ZFLモチーフ)がETT遺伝子の exon1のCpGを含む配列に結合し、その結合にはZFLモチーフが必須であることを報告した(Vial-Pradel et al., 2018 PCP in press)。AS2とAS1は核小体近傍に局在することから、このようなCpGのメチル化は核小体の近傍で起こっている可能性がある。RH10とNUC1は、オルソログが酵母からヒトまで真核生物に共通に存在する分子であるが、コード領域のDNAメチル化維持に関わる例はまだ報告されいない。AS2は植物固有のタンパク質であることから、CpGのメチル化における植物固有の新奇なメカニズムが明らかになる事が期待される。
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