研究課題
PED3はペルオキシソーム膜に局在するABCトランスポーターである。種子発芽に伴って、オイルボディに蓄積しているトリアシルグリセロールから切り出された脂肪酸は、PED3によってペルオキシソームへ輸送され、種子発芽に必要なエネルギー源であるスクロースに変換される。PED3を欠損するped3変異体は種子発芽率が極端に低下する。申請者はped3変異体の解析からPED3が脂質からの糖新生だけでなく、アブシジン酸情報伝達や種子ムシラゲの分解を介して種子発芽を制御するという新しい概念を提唱しているが、その詳細な分子メカニズムは分かっていない。本年度はped3サプレッサー変異体の同定とその遺伝的解析に注力した。ped3サプレッサー変異体とはped3変異体を再度変異源処理することで、種子発芽率が回復する変異体のことである。これまでにM2世代の植物約20,000個をスクリーニングし、約20個体のped3サプレッサー変異体候補株を単離した。そのうちの1つは、種子発芽に際して野生型と同程度のムシラゲ分解能を有し、発芽率が80%に復帰していた。ped3変異体はスクロースを含まない培地では発芽しないことが分かっているが、このped3サプレッサー変異体は発芽に際してスクロースを必要としないことが分かった。現在、原因遺伝子座の特定をめざしてマッピングを行っている。他の変異体候補についても詳細な表現型解析を行っている。いくつかの変異体候補は優性形質を示すなど現在解析中の変異体とは明らかに異なる遺伝子が変異していると考えられる。現在、これらの変異体候補について戻し交雑を行っており、それが終了次第コンプリメンテーションテストを行う予定である。平行してスクリーニングの目標を達成するためにより多くのM2種子取得を進めている。また、得られた新規のM2種子については順次スクリーニングを行っている。
2: おおむね順調に進展している
初年度の計画で重点を置いていた一次スクリーニングは今のところ目標の約半分を達成するに留まっている。十分な数のM2種子確保が間に合わなかったからである。現在、目標数のM2種子の確保に向けて努力している。一次スクリーニングでは、低濃度のスクロース培地で発芽したものを変異体候補としているが、M3世代の種子について発芽率を調べてみると、発芽率が回復していないものがあった。現在、二次スクリーニングによって実際に発芽率が回復したped3サプレッサー変異体の絞り込みを行っている。この絞り込みには世代を跨がった解析が必要で、予想以上に時間がかかっている。また、確定したped3サプレッサー変異体をさらに戻し交雑してから詳細な表現型解析を行っており、こちらも予想以上に時間がかかっている。そこで、複数個体得られているped3サプレッサー変異体候補のうちの一つに焦点を絞り、予定していたルテニウムレッド染色や走査型電子顕微鏡による種子表面の構造解析や発芽に対するスクロースの影響などの表現型解析を行った。その一方で、次年度以降に予定していた原因遺伝子のマッピングについては予定を早めて本年度から開始している。ただし、現在はまだマッピングのための条件検討をしている段階である。
予定している数のM2種子のスクリーニングがまだ完了していないので、まずはM2種子の確保およびその一次スクリーニングを最優先に行っていく。さらに、今年度の解析結果から、ped3サプレッサー変異体であることの最終的な決断にはM3種子における発芽率の再検討が必要であることが判明したため、早急にM3種子を得て、2次スクリーニングによるped3サプレッサー変異体の同定を行う必要がある。2次スクリーニングで絞り込んだped3サプレッサー変異体はコンプリメンテーションテストによって原因遺伝子ごとにグルーピングする。グループごとに原因遺伝子の遺伝学的解析を進めるとともに、アブシジン酸やムシラゲ、種子開裂など種子発芽に注目した表現型の詳細な解析を進める。先行して解析中のped3サプレッサー変異体について原因遺伝子の特定を進めている。現在、分子遺伝学的アプローチによってマッピングを行うための条件を決定した後、定法に従い遺伝子座の位置を決定する。平行して変異体の全ゲノム配列決定を行い、野生型と比較することで原因遺伝子を特定する。今後得られるped3サプレッサー変異体についても同様の方法で遺伝子を特定していく。特定した遺伝子の産物はアミノ酸配列などのタンパク質情報と変異体の表現型を合わせて、その機能を明らかにしていく。
初年度は必要な量のM2種子を確保するためのM1植物とその後同定した変異体を育成するために必要な消耗品を計上していたが、栽培スペースなどの問題で当初予定したほど使用しなかった。
次年度はこれまでより広い栽培スペースを確保できたため、より多くの植物が栽培可能になる。それに伴って増加する植物栽培用の消耗品費として使用する。
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http://b-lab.nagahama-i-bio.ac.jp/?page_id=72