エピジェネティックな遺伝子発現の変化が花の模様にあらわれるアサガオの変異体を材料に、遺伝子の発現状態が世代を越えて遺伝する「経世代エピジェネティック伝達」と、DNAメチル化による遺伝子の抑制機構の解明を試みた。 平成30年度は、アサガオの刷毛目絞変異体から分離する野生型、あるいは変異型のような花を咲かせる2種類のエピ変異体について、クロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-seq)による解析から着色と相関するヒストン修飾を探索した。その結果、刷毛目絞の原因遺伝子のプロモーター配列にみられるヒストンアセチル化が着色と相関することが示唆された。さらに、原因遺伝子に挿入しているトランスポゾンに転移酵素を供給するトランスポゾンについてもChIP-seqの結果を解析したところ、トランスポゾン内部の転移酵素遺伝子のプロモーター配列にアセチル化されたヒストンが集積し、変異型のようなエピ変異体でより広い領域に集積している傾向がみられた。一方、アサガオのDNAのメチル化に関する研究から、このトランスポゾンのプロモーター配列は、野生型に比べて刷毛目絞変異体で脱メチル化されていることが示唆されている。これまでの結果と知見を統合して考察すると、刷毛目絞の原因遺伝子ではなく、転移酵素を供給するトランスポゾンのエピジェネティックな変化が、2種類のエピ変異体とその表現型の経世代エピジェネティック伝達機構の中心である可能性が高い。昨年度までに、ソライロアサガオの刷毛目絞変異体の解析からは、DNAメチル化による遺伝子の抑制機構の実体は、DNAメチル化による花色遺伝子のプロモーター配列と転写因子の相互作用の阻害であることを示す結果を得ている。以上のように、植物における経世代エピジェネティック伝達とDNAメチル化による遺伝子の抑制機構の実体に迫ることができた。
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