研究課題/領域番号 |
15K07121
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
小林 一也 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (50360110)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラナリア / 生殖様式 / 生殖細胞 / 有性化因子 |
研究実績の概要 |
プラナリアの生殖様式転換機構解明の手がかりであり、多能性幹細胞から生殖細胞を誘導する側面もあわせもつ有性化因子を同定することを目的とする。有性化因子は有性個体の卵黄腺というプラナリア特有の生殖器官に含まれており、研究代表者は有性化活性を示すM0M10Fr.と呼ぶ粗精製法を確立している。M0M10Fr.にはTrpやその代謝物5-HTPが含まれ部分的な有性化活性(卵巣誘導)を持つこと、また、M0M10Fr.中の複数の化合物の相加・相乗効果によって完全な有性化が引き起こされることが示唆されている。本研究では、①有性化因子の単離・同定、②卵黄腺で産生されるTrp代謝物の解析を行っている。 研究項目①では、メタボローム解析により無性個体と比較して有性個体あるいは卵黄腺に多く含まれる化合物群32種に関して無性個体への生物検定が終了し、卵巣誘導を引き起こす化合物を17種同定した。そして、ついに完全有性化を引き起こす化合物を2種同定することに成功した。 研究項目②では、完全有性化因子には卵黄腺由来のTrpや5HTPの代謝物があると考えていたが、研究項目①で同定に成功した完全有性化因子2種(ここで便宜的に物質AとBとする)は直接的なTrp代謝物ではなかった。物質AとTrpを同時に無性個体に投与すると有性化活性が上昇することがわかった。つまり、Trpや5HTPの代謝物は物質AやBのエンハンサーとして働いている可能性が示唆された。エンハンサーとして働く有性化因子にはTrpや5HTPの代謝物があると考えているので、卵黄腺で発現している芳香族アミノ酸の代謝に関わる酵素に注目している。RNAシーケンス情報から芳香族アミノ酸の代謝に関わる酵素遺伝子が少なくとも4種あることがわかり、そのうち、PAH(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)とアノテーションがつく1種が卵黄腺で高発現していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
完全有性化因子は予想とは外れてTrp代謝物ではなかったが、2種同定することに成功した。特に物質Aの生合成経路はこれまで後生動物では報告がないことから、プラナリアで独自の機構の存在が示唆され、これが解明されれば生物学的にインパクトの高い成果に結びつくと期待できるため。
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今後の研究の推進方策 |
完全有性化因子を同定するという目的を達成したものの、物質Aと物質Bは既知化合物である。一方、並行して行われている研究結果から完全有性化活性はプラナリアが属する扁形動物内に限定されていることがわかってきた。つまり、物質Aや物質Bに由来するプラナリアに特有の代謝物(類似物質)が存在している可能性が考えられる。そこで、従来の研究項目と関連させて、研究項目①では、従来の生体材料からの天然有機化学的手法による分画・精製法で期待される未知の完全有性化因子の同定を目指す。また、研究項目②では、RNAシーケンス情報から物質Aや物質Bの代謝に関わる酵素をコードする遺伝子が存在していないかを推定する。絞り込んだ候補遺伝子はRNAiによる遺伝子ノックダウン法で有性化に関与しているか検証していくとともに、レコンビナントを作製してin vitroで物質Aや物質Bと反応させて代謝物が得られるかを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたレコンビナントタンパクの作製を行えなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、レコンビナントタンパクの作製のための消耗品やレコンビナントタンパクの活性評価や生物検定に必要な消耗品を購入する。
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