ある種のプラナリアは有性生殖と無性生殖を転換させることで、それぞれの生殖様式のメリットを生かした生存戦略をとっていると考えられる。有性個体には無性個体を有性化させる有性化因子が含まれており、有性化因子が明らかとなれば生殖様式転換機構解明の手がかりとなる。卵巣誘導因子として同定されたTrpが卵黄腺に大量に含まれているという発見から、有性化因子の産生場所として卵黄腺に注目した。これまでにメタボローム解析により完全有性化因子2種を同定し、Trp やその代謝物は完全有性化因子のエンハンサーとして働いている可能性を示唆した。本研究では、エンハンサーとして有性化活性のあるTrp代謝物に注目して検証を行なった。卵黄腺に多く含まれる化合物の中でTrp代謝物はキヌレニンと5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)があった。キヌレニンには有性化活性がなかったが、5-HTPはTrpと同様に卵巣誘導活性があった。Trpから5-HTPの合成に働く酵素はTPHであるが、卵黄腺で発現している芳香族アミノ酸の代謝酵素遺伝子はPAHのみが発現していた。さらにプラナリアPAHにはアイソフォームが2種類あり、卵黄腺で発現しているPAHは卵黄腺特異的であることがわかった。卵黄腺にはTyrも多く含まれており、卵黄腺特異的PAHはPAH活性とTPH活性の双方を併せ持つ酵素であるという意外な結果が示唆された。卵黄腺特異的PAHのレコンビナントの酵素活性の検証も行なえる段階にした。無性個体と有性個体のRNAシーケンス情報を用いたエンリッチ解析を行なったところ、無性状態と有性状態でそれぞれ特異的なTrp代謝が有意に働いていることが示唆された。プラナリアは無性状態から有性状態に移行する時に、Trp代謝を変化させることで、その代謝物を有性化エンハンサーとして利用していることが示唆された。
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