研究課題/領域番号 |
15K07125
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
日下部 誠 静岡大学, 理学部, 准教授 (40451893)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リラキシン / 神経ペプチド / lateral lemniscus / griseum centrale / 浸透圧調節 |
研究実績の概要 |
本研究は、イトヨをモデルとしてリラキシンの機能を解析し、脊椎動物におけるリラキシンの生理的意義の解明を目指す。研究代表者の先行研究により、イトヨのリラキシン(rln)およびその受容体遺伝子は複数存在し、主に脳に発現していることが明らかになっている(Kusakabe et al. 2014 Gen Comp Endocrinol)。また、飼育実験で環境浸透圧を変化させるとriln3b遺伝子の発現が有意に増加する事から、浸透圧調節に関与する神経ペプチドとしての役割が示唆された。これら結果を踏まえ、本研究ではイトヨ脳地図を作製し、その後リラキシン発現部位の同定を行うことによって機能を予測することを計画した。しかしながら、先行研究において得られたイトヨのリラキシンの浸透圧調節因子としての役割についての確証を得るため、量的形質遺伝子座(QTL)解析を用いて体液浸透圧の変化にリンクする遺伝子座の同定を平成27年度の研究に加えた。結果的には、QTL解析によって得られた遺伝子座にリラキシンおよび受容体の遺伝子は含まれていなかった(Kusakabe et al. 2015 口頭発表 国際トゲウオ学会 米国NY)。このことはリラキシンの浸透圧調節因子としての可能性を否定するものではないが、脳のリラキシン発現部位を解析する上で、浸透圧調節以外の機能についても精査する必要があることを示す重要な結果となった。脳地図作製に関しては、イトヨの全脳のクロス切片を作製し、riln3b遺伝子の発現部位をin situ hybridization法を用いて解析した。ウナギの脳地図の情報をもとに発現部位を解析したところ、riln3b遺伝子は中脳のnucleus of the lateral lemniscusおよび後脳のgriseum centraleにおいて強い発現が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、平成27年度にイトヨの脳地図を完成させる予定であったが、先行研究において得られたリラキシンの浸透圧調節に対する機能への可能性をさらに掘り下げるために、量的形質遺伝子座(QTL)のマッピングにより体液浸透圧変化リンクする遺伝子座の同定を平成27年度の開始時に行った。QTL解析から有意義な結果を得る事が出来たが、当初予定していた脳地図の作製開始に遅れが生じた。また、平成28年2月に研究代表者の所属機関が東京大学大気海洋研究所から静岡大学に変更になった。そのため、異動の前後において通常の研究業務を遂行することが困難な状況が生じた。以上の理由のため、当初の予定より研究の進捗がやや遅れている。平成27年度、イトヨの脳地図に関しては、全脳のクロス切片を作製し、リラキシン遺伝子の発現部位を確定した。現在、発現部位の神経核名の確定をするために、ニッスル染色を用いて神経組織の染色を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在作製途中のイトヨ脳地図の完成を優先して行う。イトヨ脳地図はリラキシンの機能解析だけではなく、今後のイトヨを用いた研究を行っていく上で重要な情報となるため、早急に脳地図を完成させる必要があると考えている。平成27年度の研究によりriln3b遺伝子の発現が中脳のnucleus of the lateral lemniscusおよび後脳のgriseum centraleにおいて認められたが、これらの神経細胞の機能が魚類では明確に分かっていないことも明らかになってきた。そのため、リラキシンの発現部位を確定するだけではその機能を予測する事が難しいことが予測される。そこで、現在、ゲノム改変技術CRISPR/Cas9を用いた遺伝子破壊イトヨの作出を当初の予定から早めて平成28年度から開始することを考えている。遺伝子破壊イトヨによって現れる表現型に対して、ペプチド投与などでレスキューする順序がリラキシンの機能を確定する上で有効なアプローチかもしれない。
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