研究実績の概要 |
カナダ・リトルキャンベル川産の純系海水型と淡水型イトヨを交雑して得た雑種1世代目をさらに交雑して作出した雑種2世代目について海水移行実験を行い、体液浸透圧(血漿ナトリウム値)を表現型とした量的形質遺伝子座(QTL)解析により海水適応に関わる遺伝子座を同定した(Kusakabe et al. 2017 Molecular Ecology)。真骨魚類におけるリラキシン関連遺伝子は脳に多く発現していることから、環境浸透圧の変化に対するリラキシン関連遺伝子の動態をより明らかにするため、RNAseqにより脳における淡水型と海水型イトヨの遺伝子発現プロファイルを作製した。次に、連鎖QTLに局在し、血漿ナトリウム値の変化と高い相関を示す遺伝子をリストアップした結果、8候補遺伝子が絞り込まれた(ACVR1, BBS5, C13orf1, CHMP2B, NXPH2, RPE, U2AF1, UGGT2)。しかしながら、このリストに受容体を含むリラキシン関連遺伝子は存在しなかった。この結果は昨年の結果からも示唆された「海水と淡水におけるリラキシン遺伝子の発現の違いはシス領域に変異はあるが強い選択がかかっていない可能性、あるいは別の遺伝子座のトランス作用による可能性がある」という考察を支持するものであった。しかしながら、浸透圧調節のメカニズムという観点から考えると、鰓でのみ浸透圧調節候補遺伝子を絞り込むことが出来たという結果は、鰓に発現する浸透圧調節候補遺伝子がより血漿のナトリウム量の制御に関与していることを示唆する結果として有意義な情報を得ることが出来た。
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