研究課題
本研究課題は、硬骨をもたない原始的な脊椎動物であるヤツメウナギを用い、ほ乳類において骨代謝ホルモンとして知られるカルシトニンの始原的機能を明らかにすることを目標としている。本年度は、まずカワヤツメウナギ(Lampetra japonica)のカルシトニン及びカルシトニン受容体の全長配列を脳cDNAから決定した。カワヤツメウナギカルシトニン遺伝子は、31アミノ酸残基のカルシトニン様ペプチドをコードしていた。ペプチド配列は、脊椎動物カルシトニンに対して 37-53 %の同一性を示した。N末端側は、S-S結合により形成されるカルシトニンに特徴的な環状構造が、C末端側は、カルシトニンに特徴的なアミド化Proが保存されていた。一方、受容体候補は、全長 424アミノ酸配列で、脊椎動物カルシトニン受容体とおよそ 40-50 %の配列同一性を示した。脊椎動物のカルシトニン受容体とカルシトニン受容体様受容体との分子系統解析の結果、ヤツメウナギのカルシトニン受容体候補が、脊椎動物カルシトニン受容体及びカルシトニン受容体様受容体の共通祖先に由来することを示した。カワヤツメウナギは、淡水と海水を行き来する遡河回遊魚である。回遊により浸透圧の変化に晒されるが、鰓や腎臓の機能により体内の浸透圧を一定に維持することができる。本研究において、カルシトニン抗体を用いたELISA解析の結果、カワヤツメウナギを淡水から海水に移行する実験で、血中のカルシトニン様物質濃度が上昇することを明らかにした。さらに、カルシトニン受容体候補の遺伝子の発現が、鰓において海水移行により有意に上昇することを明らかにした。これらのことから、ヤツメウナギにおいて、カルシトニンが浸透圧調節に関与している可能性が示唆された。現在、上記の結果をまとめ論文を作成している。
2: おおむね順調に進展している
ヤツメウナギにおいて、カルシトニン及び受容体候補の全長配列を決定し、それらの浸透圧調節との関係を示唆することができたので、順調に研究が進んでいる。
ほ乳類において、カルシトニンは血中カルシウムを低下させるホルモンとしてカルシウム代謝に関わっている。一方、カルシウム代謝関連遺伝子の中には、血中カルシウムを上昇させる働きのあるホルモンも存在する。H27年度に、血中カルシウム上昇ホルモン関連遺伝子がカワヤツメウナギに存在することを確認する為に、カワヤツメウナギゲノムを検索した結果、副甲状腺ホルモン(PTH)、スタニオカルシン、ビタミンD合成酵素(CYP2R1, CYP24A1)と相同な遺伝子が存在することを明らかにしている。またヤツメウナギにおいて、浸透圧変化とカルシトニンの間に関連性を見いだしたため、上記のホルモンは、浸透圧調節に対してカルシトニンと逆の作用を示すと予想される。そこで、今後は、上記のカルシウム上昇ホルモン相同遺伝子をクローニングするとともに、組織発現分布をRT-PCR で検討する。さらにカワヤツメウナギの海水移行実験の系が既に確立されていることから、この実験系における鰓や腎でのカルシウム上昇ホルモン相同遺伝子の発現変動を解析する。興味深い発現動態を示した場合、in situ hybridization を用いた局在解析を行い、発現細胞の特徴からその機能を考察する予定である。
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