研究課題/領域番号 |
15K07130
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
武智 克彰 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (70515501)
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研究分担者 |
高野 博嘉 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (70242104)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒメツリガネゴケ / カラマツ / MurE遺伝子 / 遺伝子相補解析 |
研究実績の概要 |
コケ植物ではペプチドグリカン(PG)合成系遺伝子が全て保存され葉緑体分裂に関与するが、シロイヌナズナではPG 合成系遺伝子は4 種類しか保存されておらず葉緑体分裂に関与しないが、合成系遺伝子の一つMurE は、色素体の遺伝子発現に関与し機能転換していることを我々は見出した。それでは、葉緑体進化の過程で、PG合成系遺伝子だったMurEがいつ機能転換したのであろうか?本研究では、コケ植物と被子植物の間に位置する裸子植物カラマツのMurE遺伝子であるLgMurEについて機能解析を行った。LgMurEは、シロイヌナズナMurE (AtMurE)同様に、細菌MurEドメインのN末端側に、機能未知の約250aaの配列が融合した構造をしている。GFPとの融合遺伝子を作成し、LgMurEの局在解析を行ったところ、葉緑体に移行することを確認した。LgMurE全長配列を、ヒメツリガネゴケ(Pp)MurE遺伝子破壊株に導入したところ、AtMurEを導入した時と同様に、巨大葉緑体の表現型は相補されなかった。またLgMurEのN末端側機能未知配列の後ろにPpMurEのMurEドメインを繋いだ融合遺伝子を、PpMurE遺伝子破壊株に導入したところ、表現型は相補された。このことから、LgMurE遺伝子はAtMurE遺伝子同様に、機能転換している可能性が高いことと、LgMurE遺伝子のN末端側配列は、PG合成に機能するPpMurEドメインの働きを阻害せず、LgMurEの機能転換はN末端側の付加によるものではなく、LgMurEのMurEドメインそのものに変異が起きることによって生じたと考えられた。一方、ヒメツリガネゴケゲノムの中に、もう一つMurE遺伝子 (PpMurE2)が保存されていることが明らかになった。PpMurE2は、AtMurEやLgMurEと同様に、N末端側に機能未知ドメインをもつ構造をしている。PpMurE2の遺伝子破壊株を作成したが、現在までにPpMurE遺伝子破壊株で観察されるような巨大葉緑体の表現型を示していない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は、主にヒメツリガネゴケPpMurE遺伝子破壊株を用いた、MurE遺伝子の遺伝子相補解析を行った。LgMurE遺伝子の結果については、概ね予想通りであったが、これまで機能未知のN末端の配列が付加していることにより、遺伝子の機能転換が生じていると予想していたが、そうではなくMurEドメイン内の点突然変異によって機能転換が生じている可能性があることが判明した。PpMurE2遺伝子の解析は、現在遺伝子破壊株を単離したところであり、まだ詳細な表現型解析を行えていない。今後、PpMurE2の機能を明らかにする実験をすすめていく。また計画では、H27年度はDdl遺伝子や、シダ植物イヌカタヒバについても解析を行う予定であったが、進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、PpMurEとLgMurEの全長配列やそれぞれのドメイン置換配列を、シロイヌナズナAtMurE遺伝子タグラインに導入する遺伝子相補解析を行う。またAtMurE、LgMurE、PpMurE、細菌MurEのアミノ酸配列比較により、機能転換を引き起こしたと予想される候補部位を同定しているので、PpMurE遺伝子破壊株に、点変異を導入した各遺伝子を形質転換し、これまで機能相補しなかったLgMurEやAtMurEで機能相補が見られるようになるか、またPpMurEの点変異導入により、相補ができなくなるか確認することで、MurEの機能転換を引き起こした突然変異箇所を同定する。さらにイヌカタヒバMurE遺伝子について、単離と遺伝子相補解析を開始する。シダ植物イヌカタヒバには、PG合成系全遺伝子が保存されていることが明らかになっているので、その葉緑体はPGをもつ可能性が高い。昨年、我々は細胞にエチニル基の付加したD-アラニルD-アラニンを取り込ませた後、Click反応により蛍光標識することにより、灰色植物シアノフォーラとヒメツリガネゴケの葉緑体においてPGを検出することに成功したので、イヌカタヒバでも同様に試みる。
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