細菌のPG合成系遺伝子の1つであるMurE遺伝子は、ヒメツリガネゴケ葉緑体PG合成に関与し葉緑体分裂に必須である。一方、シロイヌナズナにはAtMurE遺伝子は存在するものの、全てのPG合成系相同遺伝子は保存されていない。AtMurEは色素体の転写装置であるPEP複合体に含まれ、葉緑体の遺伝子発現を調節することが示され、MurEは緑色植物の進化の過程で機能分化したと考えていた。また最近、我々はヒメツリガネゴケの新たなMurEを見いだし、PpMurE2と命名した。PpMurE2の機能を調べるため、遺伝子破壊株を作成したが、PpMurE1変異体のような巨大葉緑体は出現しなかった。またPpMurE2によりPpMurE1変異体の表現型は相補されなかったことから、PpMurE1とPpMurE2は異なる機能を持つことが推測された。PpMurE2もAtMurEと同様に、MurEドメインのN末端側に機能未知(FU)領域をもつことから、PpMurE2とAtMurEの機能が相同であるかを調べたところ、AtMurEタグラインが示すアルビノ表現型が相補されたことから、PpMurE2はAtMurEと同様に、葉緑体転写装置の一部として機能することが推測された。しかし、PpMurE2変異体ではAtMurEタグラインのようなアルビノ表現型は観察されなかった。 MurEは緑色植物において、広く保存されているが、それではいつ葉緑体分裂から葉緑体分化へと機能転換が生じたのであろうか?それを明らかにするために、裸子植物をもちいて機能相補解析を行った。カラマツ(Lg)MurEはPpMurEを相補できず、AtMurEを相補可能であったが、オウシュウトウヒ(Pa)MurEはPpMurEを相補可能であった。同じ裸子植物のMurEでもLgMurEは葉緑体分化機能を、PaMurEは葉緑体分裂機能をもつという興味深い結果を得た。
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