研究課題/領域番号 |
15K07134
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
岩室 祥一 東邦大学, 理学部, 教授 (70221794)
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研究分担者 |
小林 哲也 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00195794)
菊山 榮 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 名誉教授 (20063638)
蓮沼 至 東邦大学, 理学部, 講師 (40434261)
岡田 令子 静岡大学, 理学部, 講師 (50386554)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒストン / ヒストンH3 / 生体防御ペプチド / 細胞毒性 / 抗菌性 / 細胞膜透過性ペプチド / ヒストンH2B |
研究実績の概要 |
古くからヌクレオソームの構成成分であり細胞核内物質として知られていたヒストンは、現在では細胞外にも存在し、抗菌作用と細胞毒性の二つの作用を有することが定着している。しかし、実際はそれらを示す詳細なデータは報告されていないことから、本研究はこの二面性に関する基礎データを揃えることを出発点とした。 まず市販のウシヒストンH3を用いて、その抗菌スペクトラムを微量液体希釈法により測定した。被検体には、グラム陰性菌として大腸菌、アエロゲネス菌、緑膿菌、腸炎菌を、グラム陽性菌として黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ミュータンス菌を、真菌としてカンジダを使用した。その結果、種間での差異はあるものの、使用したすべての菌種に対し、ヒストンH3は明確な抗菌作用を有することを明らにした。そこで、Killing assayならびに走査型電子顕微鏡(SEM)観察を実施したところ、ヒストンH3は細菌細胞膜破壊を伴う殺菌型の抗菌作用を有することが明らかとなった。加えて、ヒストンH3処理を施されても形状的に変化が見られない細胞が各菌株において存在することも確認され、ヒストンが水溶液中で立体構造や多量体形成した際に、その抗菌活性ドメインと接触した菌のみが破壊されるのではないかという仮説が提唱された。 次いで、ヒストンH3の細胞毒性について、MTT assayならびにSEM観察を用いて、正常細胞株であるヒト大動脈内皮細胞とヒト臍帯静脈内皮細胞、不死化細胞株であるヒトHepG2細胞とサルCOS7細胞に対して検証した。その結果、ヒストンH3はいずれの細胞に対しても細胞膜破壊を介した細胞毒性を示したが、不死化細胞においては細胞密度によってはMTT assayでの細胞毒性が検出できなかったことから、正常細胞と不死化細胞では、条件によってヒストンH3の細胞毒性が検出できない場合があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は当初の計画通りに進み、成果は国内外の学会や研究会で発表済みもしくは発表の予定である。学術論文として投稿するに足るデータを得ていると判断でき、現在、執筆中であるが、投稿までには至っていないので、このような自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、執筆中の論文を完成させ、投稿することを最優先課題とする。また、ヒストンH3分子内の殺菌ドメインを同定するため、ヒストンH3分子をN末端からほぼ同じアミノ酸残基数ごとに4つに分け、それぞれのレプリカペプチドを合成し、抗菌活性や細胞毒性をもつ部位を特定する実験を行う。すでに抗菌活性を示す部位の大まかな特定はできており、その部位の絞り込みと、細菌毒素であるリポ多糖やリポテイコ酸との結合の有無、細胞毒性や溶血性の検出に向けた実験を行う予定である。 また、ヒストンの真核細胞膜透過性に着目した実験にも着手している。ヒストンタンパク質はいずれも細胞毒性を示さない程度の濃度において、細胞膜透過性を示すことが報告されている。本研究では、原核細胞に対して膜透過を行うことで抗菌活性を示すヒストンH2Bを対象とし、抗菌活性部位と膜透過性部位の探索を行うこととした。ヒトヒストンH2Bのアミノ酸配列から、細胞膜透過を行う可能性のある部位を予測し、レプリカペプチドを合成、蛍光標識して各種培養真核細胞の培養液に添加し、蛍光顕微鏡で検出する。すでにポジティブコントロールとして合成した細胞膜透過ペプチドであるTATを用いて膜透過の検出・観察するための手法を確立している。候補となるペプチドの合成・入手も済ませており、すでに細胞毒性の有無については検証を終えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者は2016年7月にフランス・ルーアンにて開催される国際シンポジウムへの参加・発表を予定しており、今年度中にその申し込みを行うこともできたが、その後の会計処理の利便性から考え、次年度の手続きのほうがよいと判断し、その旅費として繰越をした。また、年度末にサンプルや試薬を保存するための冷凍庫が不足してしまい、その購入費用として繰越をした。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の国際シンポジウムの旅費とする。また、代表者と同じ研究室に所属し本研究課題の分担者でもある教員の科研費との合算で冷凍庫の購入を行う。
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