研究課題
本研究はアルギニンバソトシン(AVT)含有ニューロンやAVT受容体に着目し、有尾両生類アカハライモリ雄が繁殖期に雌にしめす求愛行動の発現メカニズムを解き明かすことを目的としている。平成28年度はアカハライモリ求愛行動に関与するAVT受容体のサブタイプの同定が主要な目的であった。これまで、イモリではAVT受容体はV1aタイプ、V1bタイプ、V2タイプの3種類のcDNAがクローニングされ、いずれも脳に発現していることを確認していた。近年、in silico解析により、下垂体後葉ホルモン受容体遺伝子に新たなファミリーの存在が示され、この受容体をV2bタイプ受容体とすること、これまでV2タイプ受容体とされていたものをV2aタイプ受容体とするよう提唱されている。今回、アカハライモリ脳でもこのV2bタイプ受容体が発現することを明らかにし、タンパク質コード領域を含むcDNAのクローニングを実施した。また、この受容体を哺乳類細胞に発現させ、ルシフェラーゼアッセイを実施したところ、50%効果濃度は約1 nMであり、AVTと十分に反応することが示された。したがって、本年度の研究より、イモリには4種類のAVT受容体が発現していることが明らかにされた。さらに、脳を部位ごとに分け、その発現を確認すると、V2bタイプ受容体は両生類の主要な脳脊髄液の産生部位と考えられている副生体に強く発現することが分かった。この発現パターンはV2aタイプ受容体と類似している。したがって、イモリ脳には4種類のAVT受容体が発現するものの、V2aタイプおよびV2bタイプ受容体は、脳脊髄液の産生や浸透圧調節に関与するものと考えられる。この成果を受けて、4種類のAVT受容体のうち、どの受容体が求愛行動発現に関与するかの解析が必要となってくる。
3: やや遅れている
アカハライモリ求愛行動発現時の血液中のAVT濃度の定量について、ELISA法の系を立ち上げることを目標に取り組んできた。平成27年度にはAVTのN末端にビオチンを標識した分子を合成し、抗AVT血清との反応性を確認し、感度不足であることが明らかになったことから、平成28年度ではN末端に加えて、C末端もビオチン標識した分子を新たに合成した。しかし、現有の抗AVT血清はC末端のアミド基の存在が重要と考えられ、C末端をビオチン化したことにより、抗血清がAVTをほぼ認識しなくなった。したがって、AVTのN, C両末端をビオチン化した分子はELISA法には利用できないことが明らかになった。次年度はELISA法の立ち上げには時間を割かずに、AVTの定量は放射免疫測定法に一本化する。また、前年度同様、求愛行動発現時に活性化する神経細胞をc-fosの発現を頼りに解析しようと試みている。現在は抗イモリc-fos抗体の特異性について十分なデータが揃ってきた。また人為的に神経を活性化した場合に発現が高まるかについての検証もおろそかにせずに実施する。平成28年度研究実績の項目でも言及したが、イモリ脳内に4番目のAVT受容体となるV2bタイプ受容体の発現を確認した。主に副生体に発現することから求愛行動の発現に関与する可能性は低いと考えられるが、解析対象として脳内の詳細な発現部位の特定も行う。
2年間の研究期間を経て、当初計画を遂行するための十分なデータおよびツールが揃ったといえる。求愛行動中の雄イモリ血中AVTレベルの測定および間脳視索前野のAVT含有ニューロンの活性化の有無を明らかにすることが最も優先順位の高い研究題目である。AVT受容体については、V2bタイプ受容体という当初計画には記載していなかったタイプの受容体がイモリにも存在し、なおかつ脳でも発現していることを新たに突き止めた。V2bタイプ受容体の研究については魚類、鳥類のみに限られており、進化的観点から両生類での機能についてぜひ明らかにしたい。求愛行動への関与という観点からは依然としてV1aタイプまたはV1bタイプ受容体の関与が主流と考えられるが、V2bタイプ受容体の関与の可能性も排除せずに研究を進行させる予定である。
10743円の次年度使用額が生じたが、旅費や人件費・謝金等が当初計画よりも少なく済んだことが理由である。しかし、次年度使用額は少額であり、全体としてほぼ計画通りと言える。
今後の研究の進展にもよるが、旅費や人件費・謝金に充当するか、または必要な消耗品費に充当することを検討している。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 41334
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http://www.lab.toho-u.ac.jp/sci/bio/regl/