研究課題/領域番号 |
15K07136
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
岡 敦子 日本医科大学, 医学部, 教授 (50175254)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 小腸 / 幹細胞 / Ror2 / Wntシグナル伝達経路 / 甲状腺ホルモン / 変態 / 培養 / アフリカツメガエル |
研究実績の概要 |
両生類の小腸では、甲状腺ホルモン(TH)を引き金として、幼生上皮の一部(予定幹細胞)が成体幹細胞へと脱分化し、哺乳類類似の上皮を形成する。本研究は、予定幹細胞特異的に発現するRor2(Wnt5a受容体)を指標にして予定幹細胞を同定し、幹細胞の発生やニッチ形成の分子機構を解明することを目指している。 本年度は、予定幹細胞の系譜解析のため、昨年度に引き続きレポーターとなるloxP導入トランスジェニック(Tg)カエルのライン化を進めた。Ror2遺伝子の転写調節領域にGFPをドライブさせた種々のコンストラクトを導入したTgカエルも作製し、Ror2 転写調節領域の特異性を確認した。系譜解析に最も適したコンストラクトを得るため、現在、各TgカエルにおけるGFPの発現強度を比較検討中である。 脱分化時期の小腸の組織細胞化学的解析を行い、Wnt標的遺伝子の1つであるCD44が、幹細胞出現と同時に、幹細胞自身とその直近の線維芽細胞で一過性に発現上昇することを見出した.そこで、CD44のリガンドであるヒアルロン酸(HA)の合成阻害実験を培養下で行い、THにより新たに合成されるHAが、幹細胞の発生に必須であることを示す結果を得た。同様に、Notch経路も幹細胞出現と同時に幹細胞で活性化することを見出し、Notch経路が吸収上皮細胞と分泌細胞の分化決定に関わるだけでなく、幹細胞の発生に必須であることを培養実験により明らかにした.これらの結果は、HAや幹細胞近くの線維芽細胞が、WntやNotch経路を活性化することにより、ニッチ形成に関与することを強く示唆している。 予定幹細胞の培養系を開発するために、膜タンパク質であるRor2の細胞外領域を特異的に認識する抗体を新たに作製した。この抗体を用いて、変態前の小腸上皮から予定幹細胞のみを分離することを現在試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cre/loxPシルテムを使った細胞系譜の解析に向けて、レポーターのTgカエルのライン化、ドライバーコンストラクトの作製は順調に進んでいる。また、Ror2遺伝子の転写調節領域にGFPをドライブさせたコンストラクトを導入したTgカエルが得られたため、予定幹細胞やその周辺組織の同定や組織細胞化学的解析が容易になり、研究は進展している。 予定幹細胞の培養系の開発には、細胞分離の操作でどれだけ予定幹細胞のみを完全に、正常な状態で分離できるかが成功の鍵となる。市販のRor2に対する抗体を結合させたビーズを用いての細胞分離は不充分であったため、より有効であることが期待される抗体を新たに作製した。また、Ror2発現細胞がGFPで標識されるTgカエルを使い、フローサイトメトリーによる細胞分離も可能になった。各方法での分離の精度や細胞生存率を比較することによって、最も効率よく分離できる方法を確立できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1.ライン化したレポーターのTgカエルから得た受精卵に、最適のコンストラクト(Ror2の転写調節領域にCreをドライブさせたもの)を導入し、ダブルTgカエルを作製する。このTgカエルを使って、薬剤投与時のRor2発現細胞を永久的に標識し、予定幹細胞の系譜解析を進める。 2.Ror2の転写調節領域にGFPをドライブさせたコンストラクトを導入したTgカエルを使い、Ror2発現細胞(予定幹細胞)が、それ以外の上皮細胞(アポトーシスを起こす幼生固有細胞)とどのような違いがあるのか、WntやNotchなどのシグナル伝達に関わるTH応答遺伝子の発現に注目しながら、さらに詳細な解析を進める。また、ニッチ形成に関与することが予想される線維芽細胞や細胞外マトリックスについても組織細胞化学的解析を行う。 3.Ror2に対する抗体を結合させたビーズまたはTgカエルを用いたフローサイトメトリーにより、予定幹細胞のみを幼生固有細胞から完全に分離する。各タイプの細胞を結合組織と再結合させ、THにより予定幹細胞を幹細胞へと誘導する培養系と、幼生固有細胞のアポトーシスを誘導する培養系とを確立し、各培養片でのRNA-seq解析を行う。幹細胞制御やニッチ形成に関わる遺伝子(またはRNA)の発現および機能解析を順次進める。
|