研究実績の概要 |
脊椎動物の性決定遺伝子はヒト、メダカなどで報告されている。しかし、それらは転写調節因子や分泌蛋白質でステロイドとその受容体が脊椎動物の性決定に関わるという報告は無い。ツチガエル(両生類)は同種でありながらXY型とZW型の2つの性決定様式をもつ他の脊椎動物には類のないユニークな動物である。当研究室は、アンドロゲン受容体(AR)をコードする遺伝子はX,Y,Z,W染色体にあること、W染色体に起きた逆位が原因でW-AR遺伝子は殆ど発現しないこと、アンドロゲンとその受容体(AR)がツチガエルの雌から雄への性転換に深く関与すること、Z染色体のZ-AR遺伝子を導入したZW(雌)胚は卵巣ではなく卵精巣を形成(不完全性転換)すること、などを見つけた。当研究室はアンドロゲンとARがツチガエルの性転換のみならず、性決定に関わると考え、AR遺伝子の機能を調べた。まず、性転換に必要なアンドロゲンの濃度(閾値; 0.2ng/ml飼育水)を決定した。閾値以下では性転換は起きず、それ以上の濃度では完全性転換が起きる(Oike et al., 2016)。Z-AR遺伝子導入雌(ZW)胚の性転換が不完全の原因はアンドロゲン量の不足と考え、アンドロゲン含水(閾値以下)で胚を飼育した。予想通り、雄個体と同じ精巣を形成した。次に、最新のCRISPR/Cas9システムを用いてZW胚のZ-AR遺伝子をノックダウンした後、野生雌(ZW)胚が完全性転換を引き起こすアンドロゲン含水(閾値以上)でその胚を飼育すると、AR-ノックダウン胚では全く性転換が起きず、生殖腺は卵巣のままであった。これらの結果は、アンドロゲンとARがツチガエルの雄決定因子であることを示している。この世界初の成果は一流国際誌に発表した(Oike et al., 2017)。これらの成果でAR遺伝子がツチガエルの雄決定に関与することを示し、当初の目標を達成した。
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